コラム

【女性の脳内構造その3】プライベートの悩みは果たして、個人の問題なのか?

女性活躍推進の施策や制度や施策はあるのに、なぜか女性たちの反応はイマイチ。「女性たちは活躍なんてしたくないんじゃないか?」と疑問視する声も上がり、会社側が頭を抱えている状況だと相談がよく来ます。女性の思考特性を紐解いた「脳内構造」について海外の先行研究と照らし合わせてご紹介する4回連続の記事です。

公開日:2018.09.10更新日:2023.06.20sourire staff

「子どもが産まれたら仕事を続けられないかも」

「保育園に入れなかったらどうしよう」

 

 

働く女性で、このような悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。スリールの調査では、子どもがいない働く女性の92.7%が、仕事と子育ての両立に不安を感じていることが明らかになっています(両立不安白書)

確かに、このような悩みは「プライベート」に関するもので、一見仕事に直接かかわる問題だと思わない人もいるかもしれません。しかしながら、「仕事と子育てへの不安」を感じている人の中で、その不安から「退職・転職」を考える人は50.4%も存在します。

なぜプライベートの不安が、仕事に影響するのでしょうか?

 

女性の脳内構造

1.キャリア

2.プライベート(結婚・子育てなど)

3.周囲との関係(家族・職場など)

第1回の脳内構造の解説では、上記の「キャリア・プライベート・周囲との関係」という3つの軸を同時に考えてしまう構造についてお伝えしました。また、女性は「先読みする」傾向があり、まだ結婚もしていないのに、その先の子育てについても考えて、悩んでしまうという事例もご紹介しました。
▼アーカイブ:【女性の脳内構造その1】2人に1人が転職・離職を考えるワケ
▼アーカイブ:【女性の脳内構造その2】なぜ女性はリーダーに手を上げないのか?

 

第3回は「2.プライベート」にまつわる先行研究を紹介しながら、なぜプライベートの不安が仕事に影響するのかを紐解いていきます。
※本記事で書いている内容は、あくまで傾向値であり、全ての女性に該当するものではありません。「全ての人は多様である」というダイバーシティの視点を持ちながらも、課題の解消の為に分かり易く伝えている点をご了承ください。

 

 子育ては「知らない・分からない」もの

先ほどご紹介した、女性の「先読み(不確実性を嫌う)」の特徴は、単なる感覚論ではなく、研究でも証明されているファクトです。

第1回の記事で登場したAさん。
まだパートナーがいないけれど、結婚や子どもの事に悩んでいました。なぜそんなに早く先読みをして不安に感じるのでしょうか。

それは、今の若い世代とって子育ては「知らない・分からない」ものだからです。

大阪保健センターが1981年と、2000年行った母親調査によると、「我が子を持つまでに乳幼児の世話をしたことがないものは39.3%から64.4%」増加しています。ここ数年で乳幼児と触れ合える環境が変化していない状況を考えると、現在でも「乳幼児のお世話をする経験なしに親になっている」状況がうかがえます。

*厚生労働省 『平成15年版 厚生労働白書』より抜粋

このような「知らない・分からないもの」が訪れることがみえると、それだけで頭がいっぱいになってしまうことは、よくあることです。例えば、「来月からインドに転勤してください」などといきなり上司に言われた場合、皆さんはどう感じるでしょうか。「インド?生活環境はどうなのかな?語学は英語でやっていける?」などと、未知の世界に戸惑いますよね。仕事のミーティングでもなかなか集中できず、土日の友人との予定をキャンセルして、インドについて調べまくる・・・とにかく、やって来る「知らない・分からないもの」で手はいっぱいになり、他のことに考えが回らなくなってしまいます。

 

現在の女性の仕事と子育ての両立の不安が増長するには、似たような思考が働いています。いつか来るであろう大変そうな「知らない・わからない」子育てを心配する気持ちで、いっぱいいっぱいになってしまう、女性は意外と多いのです。しかも、今の日本社会では「女性が家庭を担うべき」という慣習が強く残っており、それがさらに女性の負担や精神的な重荷になっていることも、アンケート結果は示しています。

両立不安白書では、「家事・育児は自分(女性)の仕事」だと思っている女性が82.4%に上り、「子育てをする上では、『時間』をかける必要がある」と答えた人は94.0%にも上りました。

やはり、「育児家事を女性がメインで行う」という固定観念があり、そのために時間を使おうとするのです。

こういったプライベートの悩みが増大していくと、下記のようにプライベートのことがキャリアの領域を圧迫し、仕事についての優先順位を下げてしまうという行動に移行してしまいます。そのため、仕事が充実していたとしても、「子育てしながら働きやすい環境」に転職しようと考えて、28歳前後で転職をする人が増加していきます。

 

「そんな風に女性が思っているのであれば、活躍してもらうのは難しそう」と思う方もいるかと思いますが、そんな事はありません。

企業や上司が認識していくべきポイントとしては、特に女性にとって「プライベート」が、仕事に影響するということを認識した上で、プライベート面も含めたキャリア研修を行う必要があるということです。今回のテーマである女性の脳内構造の「キャリア・プライベート・周囲との関係」の3本軸について整理をして、それぞれ自分がどのように実現したいのか?どのような壁があるのか?どのように巻き込み、サポートしてもらうのか?を全て伝えてスキル化することで、自律的に働き続ける人が増加していきます。

 

女性は不確実な状況・リスクを恐れる

また、上記のような行動を取るのは「リスクを回避する」という女性の傾向も相乗的に関係しています。

アメリカの研究では、女性の方が男性に比べてリスクを取りたがらないことが証明されています。 不確実な状況の中、女性はリスクを恐れて決断をしない傾向になる事が証明されています。このようなデータを職場に応用して考えてみるとどうでしょう。

新しいプロジェクトが立ち上がるとなったとき、男性の多くは参画を申し出る一方で、女性は特に手を挙げる人がいないー。

これは果たしてやる気の問題なのでしょうか。

上記の研究を参考にすると、女性は決してやる気がないわけではなく、これからどのようなスケジュールになるかまだ分からない「不確実性」の高いプロジェクトに手を挙げて、それに対してコミットできない可能性を「先読み」して、立候補を躊躇してしまうのです。

また子どもがいる女性の場合、プライベート面で子どもの送り迎えや家庭に費やす時間と、両立できるかわからない・・・。しっかりと貢献できるかわからない中、周囲に迷惑をかける「リスク」をとり、立候補するのは難しいのです。

企業や上司が認識していくべきポイントは、女性はやる気がなくて立候補をしない訳ではなく、プロジェクトの「先が見えない」ので立候補をしないということです。ただ勘違いしていただきたくないのが「リスクを取らない」ということは、「リスクを未然に防げる」というプラスの性質でもあるということです。とりあえず誰かに迷惑を掛けても良いからやってしまえ!というよりも、「しっかりと貢献したい、周囲に迷惑を掛けたくないという」マインドは組織として評価できる点であることを理解してください。

プロジェクトに立候補しないという状況が起きていることは、アサインする上司側に責任がある場合も多いです。上司の皆さんは、数ヶ月後の見通しを伝えずにアサインをしていることはありませんか?それでは仕事が不透明で、誰でも不安を感じながら仕事をしていくことになります。

不安なく実行するためには、仕事に対しての目的やミッション、今後の流れや、フィードバックのタイミングなど、ある程度の見通しを立てて伝えることが必要です。この「納得感を持って働きたい」という意識は、男女関係なく若者に強い傾向として出ています。これは、今後多様な人材が増え、生産性高く働く必要がある中で必須の対応です。女性視点でマネジメントをしていくと、むしろ働き方や多様な人材にも対応できるようになる1例ですね。

控え目だから「やる気がない」と決めつけず、潜在能力を引き出して、その人がいかに活躍できるか、機会を与えることが重要です。

 

プライベート面のサポートが組織が強固になる鍵

先ほど、女性視点でマネジメントを行うと、多様な人材に対応できるという話もしましたが、実は働く女性の家庭や子育てなどのプライベート面を、職場が理解してサポートすることは、組織が強くなる近道であるという研究も出ています。

 アメリカのあるIT企業は、1年間にわたり、約870人の従業員に対して、「働き方改革」プログラムを行いました。(Phyllis Moen et al., ” Does a Flexibility/Support Organizational Initiative Improve High-Tech Employees’ Well-Being? Evidence from the Work, Family, and Health Network,” American Sociological Review Vol 81, Issue 1, 2016)。

具体的には、プログラム内容のトレーニング、上司の許可なくリモート勤務許可、また、それぞれのチーム自分たちで決めた個別の制度の実施です。このようなプログラムを行いながら、仕事への満足度、燃え尽き症候群、ストレスレベルや精神的負担の度合いを測りました。

1年間のプログラムを経て、従業員の変化を図ったところ、特に女性のウェルネスが大幅に向上したことがわかりました。男性に比べてもその効果は絶大で、女性のストレスレベルや精神的負担の低下が顕著でした。

自分で働く環境をコントロールできないことは、ストレスの要因になり、精神的・体力的な負担となってしまいます。本人への仕事の需要が高い一方で、本人のリソースが限られている場合、なおさらそうです。ストレスの度合いが高く、精神的に安定していない人。ストレスなく目の前の仕事に集中できる人。どちらの方が会社にとって良い人材なのかは、一目瞭然です。

グーグル社は、チームの成功に影響を及ぼす唯一の要因は、それぞれが感じる「心理的安全性」であることも明らかにしています。
企業や上司が認識していくべきポイントは、働き方改革の目的を「コスト削減」とするのではなく、プライベート面も考慮して働き続けられる環境を、全社員に行う取り組みという理解をすることです。
こういった仕事環境を作ることが、最終的に女性を始めとした従業員全体の仕事への満足度を向上し、健康的で強固な組織作りに繋がっていくのです。

 

 

ポイントまとめ

子育ては「知らない・分からない」もの

・「子育て」は未知のものであり、「仕事と子育ての両立」への不安を感じている点を考慮し、
プライベート面も含めたキャリア研修を行うことが必要

 

女性は不確実な状況・リスクを恐れる

・女性は「先が見えない」仕事は、立候補しにくいことを理解する事が必要

・仕事に対しての目的やミッション、今後の流れや、フィードバックのタイミングなど、ある程度の見通しを立てて伝えることが必要
→若手や多くの社員が「納得して働く環境づくり」に繋がる。

 

プライベート面のサポートが組織が強固になる鍵

・多様なロールモデルの提示と、それを受容する意識の醸成が必要

女性のキャリアに対する不安や、やる気の低下は、上記の研究でも示されているように、「個人の意識」だけではなく周囲の環境が影響しているというを理解することから始めましょう。

特に女性のキャリア形成や、管理職意識の情勢には、以下の施策が有効です。

 

 

多くの女性が持つ家庭との両立をはじめとする様々な悩みを、本人のプライベートの問題とせず、会社が精神的負担を軽減し、「心理的安全」が確保されるよう、環境改善をサポートをすることは、仕事の成果においても大変意味のあることなのです。

次の女性の脳内構造のシリーズ(最終回)は、「周囲との関係性」。どう考えて、それがどのような影響を及ぼすのか、解説します。

次回のテーマは最終回「女性の方が周囲の目を気にする?!」です。
周囲の関係性にまつわる先行事例から解説をしていきます。

是非、楽しみにしていてください。

 

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