第1回から第3回まで、女性の脳内構造の解説を行ってきました。
▼アーカイブ:【女性の脳内構造その1】2人に1人が転職・離職を考えるワケ
▼アーカイブ:【女性の脳内構造その2】なぜ女性はリーダーに手を上げないのか?
▼アーカイブ:【女性の脳内構造その3】プライベートの悩みは果たして、個人の問題なのか?
女性の脳内構造 1.キャリア 2.プライベート(結婚・子育てなど) 3.周囲との関係(家族・職場など) |
第1回の脳内構造の解説では、女性は、「キャリア・プライベート・周囲との関係」を同時に考える構造についてお伝えし、職場のあらゆる場面での女性たちの言動・行動の背景を紐解いてきました。これらは、女性の本来持っている特性だけではなく、社会的に醸成されてきた“ルール”や“慣習”が、無意識に影響を及ぼしています。
4回連続記事の最後となると今回は、「3.周囲の関係性」について深堀りしたいと思います。
※本記事で書いている内容は、あくまで傾向値であり、全ての女性に該当するものではありません。「全ての人は多様である」というダイバーシティの視点を持ちながらも、課題の解消の為に分かり易く伝えている点をご了承ください。
他人に迷惑をかけたくない女性の気持ち
今までの記事で、女性は完璧に「120%」でやろうと考える傾向があり、自分が完璧にできない際にはリーダー職を打診されても断念してしまうという事例や研究をご紹介しました。「周囲との関係性」とは、つまり「周りに迷惑をかけてはいけない」「周りの期待に応えないといけない」という気持ちです。
他人に迷惑をかけたくない気持ちや、120%でやろうとする傾向は、女性が持つ良い特性の一つですが、仕事を行う上で起こり得ることについて、認識する必要があります。
「周囲との関係性」を気にする傾向は、誰かに「依頼する」ことを躊躇させます。特に「自分の役割」だと認識している仕事を、誰かにお願いすることを「自分が完璧にできていない」と認識してしまいます。その為、自分が与えられた仕事を誰かに依頼する事を躊躇し、仕事を溜め込んでしまう現象が起こりがちになります。
しかしながら、女性は「相手に貢献している」と思えると、人への依頼がスムーズにできるようになります。チーム全体の事を考えて、「自分が行うよりも後輩に行ってもらった方が育成にもつながる・会社の利益につながる」という納得感が得られると、仕事を依頼し、更に育成の部分まで対応する人も多いです。仕事において「個人」で仕事を全うすることだけではなく、「チーム」で仕事をする意識が高まると、一人で仕事を抱え込まずにスムーズに仕事が進んでいきます。
上司が認識していくべきポイントは、仕事をアサインする際に「個人の役割」と同時に「チーム」での仕事であると伝え、チーム全体での利益を考えるように促すことです。また、この「チームで働く意識」は、女性のいる職場に関わらず必要な考え方です。日常的に起こる「同僚の病欠」時も、日頃からチームで働く意識があれば難なく対応することができます。女性視点でマネジメントをしていくと、多様な人材にも対応でき強固な組織に繋がっていく1例ですね。
また子育てにおいても、「周囲に迷惑をかけてはいけない」という意識が影響していきます。両立不安白書では、「家事・育児は自分(女性)の仕事」だと思っている女性が82.4%に上りました。「育児家事を女性がメインで行う」という固定観念があるのです。また「家事・育児」という自分の役割を誰かに依頼する事が「申し訳ない」と思ってしまい、誰かに依頼することを躊躇してしまうのです。
ベビーシッターやファミリーサポート、病児保育などの保育サポートを利用したくても利用しないという状況もあります。キッズラインの調査によると、ベビーシッターを使用したいと答えた人が「58.6%」もいたにも関わらず、実際に利用した人は「5%」に留まっています。ベビーシッター利用後の調査では、利用への抵抗感は「28.2%」と、利用前の「72.1%」比べて大幅に減少しました。その理由は、「シッターとの信頼関係ができた」(73.7%)、「子どもにも良い影響があると感じた」(58.3%)、「安全面、盗難・物損がないとわかった」(40.0%)という結果でした。
このように、子育ても「依頼」を行うことが安心であり、更には子どもにも良い影響があると感じられると、誰かにヘルプを出し、家事育児を抱え込まなくなります。
外部サポートに限らず、パートナーや親などを含めて、子育ても「チーム」で行うように意識してくことが、今後仕事と子育てを両立する人が増えていく中で必要になります。
周囲との関係性を大切にするからこそ、交渉が苦手
前述した「周囲の関係性」を気にするという特性は、「人への依頼」だけではなく、「交渉力」にも影響があります。
採用・人事面談において、今後のキャリアや待遇について、より高いレベルの内容で交渉をしたいと思いつつも、躊躇したことがある女性の方は多いのではないでしょうか。
実は、昇進や採用において、女性は男性に比べて、自ら交渉を切り出したがらないうえ、交渉の明確な基準がない場合、特に躊躇する傾向があります。(出典:Hannah Riley Bowles, Linda Babcock, Kathleen McGinn, “Constraints and Triggers: Situational Mechanics of Gender in Negotiation,” Journal of Personality and Social Psychology, Vol 89(6), Dec 2005.)
給料はある程度基準がありますが、生活サポートや福利厚生などの「金銭面以外」の点は明らかな基準がないことが多いので、この点は特に重要です。
そのため、育児休業取得後に復帰した際の「働き方」などの調整を切り出せずに、なんとなくマミートラック(復職後、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースを進むこと)になってしまうケースを多く見ます。「18時は帰らないといけないけど、営業を続けたい。働き方を調整すれば、結果を出せるかもしれない」。そう思ったとしても、上司に交渉・相談をできずにいるのです。一方上司は、その女性社員に期待をかけていて、打診してくれたらある程度は調整しようと思っているケースも多く、完全にミスコミュニケーションが起こっている現場を幾つも見てきました。
なぜこのような交渉の場面で、女性は躊躇してしまうのでしょうか。
それは、女性が交渉を切り出した際の「相手からの見られ方」に影響していると研究で明らかになっています。女性が交渉を行うと「厚かましい」「配慮に欠ける」と思われる傾向が高いことが証明されており、そういった傾向を認識しているからこそ、交渉を躊躇してしまうのです。周囲からの見られ方を気にすることで、交渉をする以前に「思っていること・考えていること」を声に出せなくなってしまうのです。では、どのようにしたら交渉や相談ができるようになるのか。それは、前提として「交渉・相談は可能である」と相手から明示されると、男女の交渉においてのジェンダー差が縮まることが分かっています。(出典:Andreas Leibbrandt, John List, “Do Women Avoid Salary Negotiations? Evidence from a Large-Scale Natural Field Experiment,” Management Science p. 2016-2024, September 8, 2014.
つまり、上司が認識していくべきポイントは、部下が自分の考えていること・思っていることを言うのを待つのではなく、「何か困っていること・話したいことがあれば、相談をして欲しい。」と伝えることが重要です。またオープンクエスチョン(限定されない開かれた質問)では、上手く表現できないことも多いため、具体的に質問することも大切です。例えば、「仕事において、大変なこと・改善したい点は無いか?」「周りとの関係性で、大変なこと・改善したい点は無いか?」(特に子育てや介護を行っている方には「プライベートで大変なことは無いか?」)などと3本軸に合わせて、具体的に質問を投げかけて、話しやすい安心な環境づくりを行うことが重要です。
このように働きかけを変えていくことで、部下や同僚の“本音”をすくい上げ、組織として健全なコミュニケーションが取ることができます。
ポイントまとめ
他人に迷惑をかけたくない女性の気持ち ・「周りに迷惑をかけてはいけない」という気持ちから、仕事の依頼を躊躇する傾向を考慮し、 ・「周りに迷惑をかけてはいけない」という気持ちは、子育てを抱え込む傾向にも繋がっていることを考慮し、
周囲との関係性を大切にするからこそ、交渉が苦手 ・女性は、交渉や相談をすることが「『厚かましい』『配慮に欠ける』と思われる」と感じ、 ・上司は具体的に質問を投げかけて、部下が話しやすい安心な環境づくりを行うことが重要。 |
いかがでしたでしょうか。女性脳内構造の3本軸、「キャリア」「プライベート」「周囲との関係性」。
「自分がモヤモヤしていた理由が明らかになった。」
「自分の部下やパートナーの想いを、とても理解できた。」
「自分は女性だけど、この傾向には当てはまらなかった。」
など、様々な想いが巡ってきたかと思います。
冒頭にもお伝えした通り、性別やセクシャリティ関係なく人間は多様であり、一括りにすることはできません。しかしながら、社会的にこれまで醸成されてきた“ルール”や“慣習”、そして無意識の”バイアス”は、まだまだ根強くあります。
本シリーズで紹介した脳内構造などの「傾向」を、女性自身も、マネージメントを担う管理職も理解することで、多様な人材が働きやすい環境をつくり、組織全体のパフォーマンスをあげることに本気になる管理職・経営者が増えていくことを願っています。
【女性活躍推進コラム】
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