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【開催レポート】働く女性600名の声から考えるウェビナー 次世代女性のキャリア自律 #Inspire inclusion  ~社会・企業・当事者の視点で考える『なんとかなる!』と思える社会~

公開日:2024.11.15更新日:2024.11.15sourire staff

LVMH Beautyとスリールは、次世代を生きる女性のキャリアオーナーシップについて考えるウェビナー「働く女性600名の声から考えるウェビナー 次世代女性のキャリア自律 #Inspire inclusion ~社会・企業・当事者の視点で考える『なんとかなる!』と思える社会~」を共催しました。

スリールは多くの企業などで女性活躍、ダイバーシティの研修を行っていること、パルファン・クリスチャン・ディオール、ゲラン、パルファム・ジバンシィ、メイクアップフォーエバー等のブランドを有するLVMH Beautyは長年、女性のエンパワーメントを実現する環境作りに取り組んでいることから、国や民族、言語文化経済政治の壁に関係なく女性の活躍や達成してきた成果を考える日である「国際女性デー」に合わせて、一人ひとりの女性たちが自分らしく生きていける社会に向けて何ができるかをディスカッションしました。

このレポートでは、2024年3月に開催された本ウェビナーの内容をお伝えします。

 

登壇者の皆様(五十音順):

■白澤 晶子 氏
LVMH パフューム&コスメティックス事業 人事 Vice President

米国大学院卒業後、外資系企業にて人事のキャリアをスタート。アクサ生命、ジョンソン・エンド・ジョンソンにて経験を積んだ後、2003 年、LVJ グループ株(現ルイ・ヴィトン・ジャパン株)に入社。ゲラン、ロエベ、LVMHファッショングループ統括人事担当を経て 2016 年、LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン・ジャパン株式会社 HRディレクターに着任。2023 年1月より現職。2人の息子の母親でもある。 LVMH グループで Working Parents Committee を立ち上げ、働き世代のママ・パパ に向けて役立つ色々な情報を随時発信。ランチ会なども開催し、情報交換の場となっている。

 

■田中 沙弥果 氏
特定非営利活動法人Waffle 理事長

大学卒業後、NPO法人みんなのコードに入職し、全国の教員向けにプログラミング教育支援事業を推進。2017年女子およびノンバイナリーの中高生向けにITキャリア教育を提供開始。2019年Waffle設立。2020年Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。内閣府 若者円卓会議 委員。経産省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」有識者。女性に関する政策提言をG20に向けて行う公式エンゲージメントグループ「W20 JAPAN」デリゲート。2024年世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ(YGLs)2024に選出。

 

■御代 一秀 氏
東急株式会社 人材戦略室 人事開発グループ 統括部長

1994年入社​。「東急セルリアンタワー」など不動産の開発・運営、経営企画、警備子会社出向等を経て、2019年にイノベーション推進組織「フューチャー・デザイン・ラボ」発足時に責任者として着任。2022年10月、人事開発グループ統括部長に着任し、イノベーティブな企業風土醸成と従業員の”個”の最大化を支援するため、人事制度の整備・職場環境改善・ダイバーシティマネジメントなどの取組みを推進している。

 

■安田 洋祐 氏
経済学者、大阪大学大学院 経済学研究科 教授

東京大学経済学部卒業後、米国プリンストン大学へ留学しPh.D.(経済学)を取得。政策研究大学院大学助教授、大阪大学准教授を経て、22年7月より現職。専門はゲーム理論、マーケットデザイン、産業組織論。American Economic Reviewをはじめ、国際的な経済学術誌に論文を多数発表。20年6月に株式会社エコノミクスデザインを共同で創業し、コンサルタント業務やオンライン教育サービス「ナイトスクール」を運営する。

2024年の国際女性デーのテーマは「インスパイアインクルージョン(インクルージョンを促進しよう)」でした。

インクルージョンとは、それぞれの多様性を認め、受け入れ、さらにお互いを生かすことですが、組織の中で、育児、介護など様々な状況で働く人たちが存在する状況はもはや当たり前になってきています。

現在はその次のステージとして、その多様な人たちが、活動の範囲をどう広げられるのかを考えるフェーズにあります。

そこで私たちは今回のウェビナーにあたり、
「若者がワークとライフに希望を持てる社会づくり」
「女性活躍にまつわるバイアスを取り除くこと」
「当事者を取り巻く現実から、ジェンダーギャップ解消の糸口を探っていくこと」
を目指すため、次の3つをディスカッションテーマとして掲げました。

●なぜ「なんとかならない」と感じてしまうのか
●「なんとかなる」と思えない理由は何なのか。
●次世代が「なんとかなる」と思える社会にするために何ができるのか

スリールが昨年、働く女性を対象に行ったアンケートでは、若手、または、子育てをしていない女性300名の4割以上が、将来「結婚/妊娠/育児を理由に退職すると思う」または「続けるかわからない」と回答しました。

出典:スリール「女性のキャリア自律白書」8pより引用 回答者数300名

 

働く女性の4割以上がキャリア継続に希望を持てないという現状を打破し、「なんとかなるからやってみよう」と前向きな選択が持てる社会にするために何ができるのか。社会、企業、そして次世代である当事者の視点から、アクションヒントを探りました。

 

「女の子だから」が狭めるポテンシャル

最初のディスカッションテーマは「なぜ『なんとかならない』と感じてしまうのか」。実は、世界経済フォーラムが公表した「国際ジェンダーギャップ指数2023」で、日本は146カ国中125位と非常に低い評価でした。

また、ガールスカウト日本連盟「ジェンダーに関する女子高校生調査報告書」によると、女子高校生の47%、女子大学区制の66%が「女の子だから」という理由で何らかの制限を受けたことがあると回答しています。

出典:公益社団法人 ガールスカウト日本連盟『ジェンダーに関する女性高校生調査報告書』P9より

 

なぜ日本にはジェンダーギャップが深く存在しているのか。安田氏は「なんとかならないと思うから、実際になんとかならなくなってしまう」という「予想の自己成就」が原因の一つだと分析しました。

経済学者、大阪大学大学院 経済学研究科 教授 安田 洋祐 氏

経済学者、大阪大学大学院 経済学研究科 教授 安田洋祐 氏

安田氏が選考委員を務め、大阪市で行われた「ナレッジイノベーションアワード」というイベントでは、各部門で最終選考会に残ったうち中学生部門は7人中6人が女性、高校生部門は7人中5人が女性でした。ところが、社会人部門では7人全員が男性だったそうです。

安田氏は「若いうちはジェンダーギャップがないどころか、女の子の方がいろいろなアイデアを出すし、言語能力が優れていてプレゼンがうまい人も多い。ところが企業に入り、先を考えて人生計画をすればするほど、自己投資をしたり、難しい仕事を受けたりしにくくなってしまうことが、女性のポテンシャルをすごく狭めている」と指摘しました。

また、長時間にわたって働ける人ほど、トータルの収入だけでなく時給そのものも高くなるという「時給(賃金)プレミアム」という構造も指摘しました。日本では長時間働き、無茶振りに対応できる人が強く求められます。その中で、夫婦の二人ともが常軌を逸した長時間労働をするのが難しいことから、女性が働き続ける道を選べないところに追いやられがちだといいます。

この問題を解決するには、長時間労働を前提としないフレキシブルな働き方に変えていく必要がありそうです。

特定非営利活動法人Waffle 理事長 田中 沙弥果 氏

特定非営利活動法人Waffle 理事長 田中沙弥果 氏

一方、田中氏は女性が中高時代の「文理選択」などが理由で、社会に出てから比較的高い時給を得やすいIT分野の知識を身に付けにくくなっている点を指摘しました。日本ではIT業界の女性技術者の割合が2割以下にとどまっており、より多くの女性がコンピューターサイエンスや情報工学、AI・機械学習などを学べるようにする必要があるといいます。

女性がIT分野のスキルを身につけることで、日本的なメンバーシップ型雇用ではなく、個人のスキルが重視されるジョブ型雇用で働けるようになることが重要と強調しました。

ディスカッションを通じて、「なんとかならない」と感じてしまう大きな理由は、教育現場や社会にこびりついているジェンダーギャップ、そして日本が高度成長期に培ってきた長時間労働・年功序列を伴うメンバーシップ型の雇用といった、社会の構造的な問題にあることがわかってきました。

 

日本社会が生む「自分で決めろと言われても……」

では、これらの課題をどのように解消していけばいいのか。続いて「『なんとかなる』と思えない理由」と、それに対する施策についてディスカッションしました。

スリールが、若手、またはまだ子育てをしていない女性300人を対象に行ったアンケートでは、自身がキャリアを継続しないと考える理由は「仕事と子育ての両立をする自信がないため」が42%で最多、続いて「平日夜の勤務の対応ができず両立が難しいため」が28%でした。

出典:スリール「女性のキャリア自律白書」8pより引用 回答者数300名

東急株式会社 人材戦略室 人事開発グループ 統括部長 御代 一秀 氏

東急株式会社 人材戦略室 人事開発グループ 統括部長 御代一秀 氏

御代氏は東急の取り組みとして、「育児に限らないプライベート全般と仕事の両立」と、「多様なキャリア観の受容」を重視していると説明しました。

まず紹介したのは、社員が年間を通じて自身の日々の職務や環境に合わせた働き方を自ら選択する「スマートチョイス」という取り組みです。従来の働き方にとらわれず、創造性の発揮や業務の効率化を考え、「働く場所」「時間」「服装」「リフレッシュ」を一人ひとりが自ら選択する制度です。女性に限らず本社を中心にすべての社員が使えるようにすることで、女性も当然のものとしてこの仕組みを使いこなせる形にしているそうです。

また、多様なキャリア観を受け入れるためにセミナーを開くなかで、管理職やトップを目指すべきといったことだけではなく、「子育てをこういうふうに適当にやってきた」とか「人に頼ってきました」といった等身大の話もしてくれる講師を招くよう心がけているといいます。意識しているのは、一人ひとりが自分にあった働き方を選べるプログラムです。

御代氏は「まずは女性が働くのが当たり前という組織風土や文化を作ること。その土台の上に施設、ツール、仕組み、ルールといったものを整えること。そしてそれに則って配属や人事評価などをしっかり運用していくこと。その結果として組織風土・文化がより強化される。女性がキャリアを継続し、ステップアップできるためにはこれらが会社として大事だと考えている」と話しました。

LVMH Beauty 人事Vice President 白澤 晶子 氏

LVMH パフューム&コスメティックス事業 人事 Vice President 白澤晶子 氏

続いて白澤氏がLVMHの取り組みを紹介しました。同社はフランスに本拠があることからフランス的なカルチャーが強く、結婚するかしないか、子供を持つか持たないか、それはいつなのかといった話は会社が関わることではなく、個人がそれぞれの考えで選択するべきだという捉え方をしているそうです。

キャリアについてもいわゆる「標準的なキャリア」というものがなく、色々な選択肢を社員個人が自分のタイミングで選び、主人公として自分の運命を決めていくべきだという根本的な考えがあるといいます。

ただ白澤氏は「日本人の今までの教育のあり方やバックグラウンドが原因で、自分で決めていいと言われた瞬間に『どうしていいかわからない』となってしまう状況に遭遇する」と悩みも打ち明けます。

そこで重視しているのが、例えば産休や育休に入る前に、「その先」について具体的なイメージを持ってもらうことです。

その社員自身が将来どうしたいのか、家族やさまざまな関係者ともゆっくりと話し合ってもらい、産休や育休から戻ってきた後に取りうる選択肢についても会社側から説明した上で、本人に考えてもらうことに重点を置いているといいます。

つい最近も、会社側がある女性社員にマネージャー昇格を打診したところ、「いま妊活をやっているので大丈夫でしょうか?」という申し出がありました。会社側は「妊活の話と、今あなたが管理職にチャレンジしたいかは別の話なので、今自分が管理職をやりたいかどうかを考えてほしい。おめでたに至ったとしたら、それはそのとき改めて話をさせていただく」と伝えたそうです。

安田氏は「キャリアと子育てを両立する」という言葉そのものへの違和感を訴えました。「キャリアと歯磨き、キャリアとゴルフを両立できるかって誰も聞かない。両立という言葉を使うこと自体が、子育ては女性を中心に長い時間とプレッシャーがかかるものだという固定化された考え方から抜け出せなくなっている証左だ」と話し、家事代行などを気軽に利用できる環境づくりが必要だと指摘しました。

 

キャリア柔軟化、ジョブ型雇用……解決策は?

次世代が「なんとかなる」と思える社会にするために、私たちは何ができるのでしょうか。

白澤氏は、キャリア変更の柔軟性を確保する取り組みを紹介しました。店舗で接客する仕事の場合、たとえば子育て中の女性が「これから日曜は出勤できない」と希望した場合、公平性の問題もあり同僚間のシフト調整だけでは実現が難しくなります。LVMHの一部ブランドではそのようなとき、一時的に正社員から契約社員などに雇用形態を変更することもありますが、もう二度と正社員に戻れないということではなく、フルタイムで働けるようになったら元の正社員の契約に戻すという柔軟な対応をしているそうです。

田中氏は、「学生が会社に入った時に、たとえば転勤が前提でキャリアアップが実現する会社ならその前提でキャリアを築こうと考えてしまいがち。そうではなく、本人の意思で、本人がやりたいことを実現する権利があるという感覚を学生時代から育む必要があるのでは」と話し、働く人自身が若いうちに「人権意識」を持つことが重要だと訴えました。

元々明るい髪色を黒く染めるよう強要するような校則に理不尽さを感じるのと同様、会社が押し付けるキャリア観に対して「なぜそれをやらなければならないのか」という課題を感じることがスタートになると考え、Waffleの中高生・大学生向けプログラムでは、自分自身でキャリアを考え、築いていけるように意識した設計をしているそうです。

安田氏は日本企業の多くが使ってきたパートナーシップ型の雇用を脱し、ジョブ型を浸透させることで個々人のスキルを「見える化」することが重要だと話します。「労働市場が売り手市場に変わっていくなかで、社員側が見える化を強くリクエストしたり、副業を認める企業が増え、社外での実績も会社が手に入れられるようになったりすることで、スキルの見える化が進んでいくのでは」と期待しました。

御代氏は、子育ての負担を夫婦で分かち合えるよう、男性の育休取得率ほぼ100%を達成した東急の取り組みを紹介しました。実際に育休を取った人の体験談を発信することで、対象者に「自分ごと」に感じてもらうといった試みに加え、子どもが生まれた男性社員には会社側に個別にアプローチしているといいます。「圧力はかけないのですが、十分に背中を押しています。そのおかげで、育休を取るのが本当に当たり前という雰囲気ができ、気まずいといった声が全く聞かれない状態になりました」と話しました。

 

自分を、周囲を、そして社会を変えていく

最後に、パネラーの皆さんに、最も重視する「ネクストステップアクション」を一つずつ挙げていただきました。

 

田中氏は「ジェンダーバイアス・ステレオタイプをなくすような取り組みを強化する」。これまでは中高生・大学生向けの教育をメインでやってきたものの、「どうあるべき」を論じる部分は社会的な風潮が強いと感じたそうです。学生と社会、両方に向けた働きかけを強化していきたいと話しました。

 

御代氏は「あたりまえを育む」を挙げました。いろんな仕組みを整えたとしても、会社と社会の体質から変わっていかないと使いこなすことは難しい。即効性はなくても、地道に会社と社会の「当たり前」を育てていくしかないと感じたそうです。

 

白澤氏が挙げたのは「Be Yourself」。これはLVMHの社内スローガンでもあるそうです。何かに合わせるのではなく、自分らしくいるために自分の状況を周囲に説明して理解や協力を得ることが大事だと考えているといいます。

 

安田氏が掲げたのは「父子Day」。女性のエンパワーメントを進めるためには、現時点ではまず男性の意識を変える必要がある。百聞は一見にしかず、パパと子供だけで何日かすごすということをどんどんやることで、社会の雰囲気が変わるのではと期待しました。

なお、スリールは2010年から、大学生向けに「ワークライフインターン」という子育て体験プログラムを行っています。大学生が共働き家庭を訪れて、夫婦がどんなふうに働いているのか、子育てや家事をどう分担しているのかを聞いたり、実際に子供と関わったりすることで、「社会に出るのが楽しみだ」という回答がインターン前の57%から87%に増えるといったポジティブな変化が生まれています。体験には大きな価値があるということが、ここからもわかると思います。

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