
2025年11月26日(水)、スリール株式会社とキャリアブレイク研究所による共催セミナーを開催しました。法政大学の石山恒貴教授も登壇し、これからの働き方について議論を深めました。労働人口が減少する今、介護や育児、学び直しなどによる“キャリアブレイク=キャリアの立ち止まり”は誰にとっても身近になり、「止まらずに働き続ける」前提の従来型経営は転換期を迎えています。では、その時間は組織にとって“マイナス”な側面だけなのでしょうか。3名の異なる領域で活躍する登壇者と共に考えていきます。
| 登壇者紹介:
◾️法政大学大学院地域創造インスティテュート/大学院政策創造研究科/キャリアデザイン学部 教授 石山恒貴
◾️一般社団法人キャリアブレイク研究所 代表理事 北野貴大 ◾️スリール株式会社 代表取締役社長 堀江敦子
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目次
ワークとライフの越境が個人と組織の未来を育む(石山恒貴教授)
石山教授は、日本企業が抱える根本的な課題を指摘しました。戦後から続く「生産性3原則」—雇用維持のためなら転勤も残業も厭わない—が、70年経った今も変わっていないといいます。「令和の時代になっても、昭和時代にみんなが悩んでいたこととあまり変わっていない。もっと本当に変えるべきことがあるのではないか」と語ります。
日本は国際的にみて「マスキュリニティ(男らしさ重視)」が圧倒的に高く、仕事最優先、弱肉強食といったマッチョイズムが企業文化に深く根付いています。しかし、人口減少が確定した未来において、このOSを変えなければ生き残れません。団塊ジュニア世代には年間200万人以上の子どもが生まれていましたが、2024年は68万人程度。出生率1.15という数字は急には変わらないため、30年後、40年後の人口動態はもはや確実な未来です。10年後には人手不足が現在の2倍になるという予測もあります。
「今年の採用が大変だった」と感じている人事担当者は多いですが、実は今年が一番楽で、来年、再来年とさらに厳しくなる一方です。今まで高齢者や女性の労働参加で労働力人口を維持してきましたが、国際的に見ても日本はすでに高い水準にあり、限界に達しています。
石山教授が提唱するのは「無限定性」からの脱却です。職種無限定、勤務地無限定、時間無限定という日本企業の特徴を見直し、「本人同意原則」を導入すること。例えば、ヨーロッパのEUでは、本人同意のない引っ越しを伴う転勤は人権侵害とされています。日本では当たり前のことが、実は国際的には異例なのです。
マネージャーとメンバーがよく話し合い、個人のライフキャリアを尊重する組織こそが、これからの時代に強くなるといいます。「ワークキャリアはライフキャリアに包含される」という考え方も重要で、仕事は人生の一部であり介護や出産、学びや余暇と切り離せません。ワークライフバランスという言葉は大事ですが、ワークとライフが対等で二律背反という捉え方ではなく、ワークはライフの一つに過ぎないという視点への転換が求められます。
越境学習の重要性も強調されました。ホーム(慣れ親しんだ場所)とアウェイ(刺激がある場所)を行き来することで、人は学び続けられます。今までの企業では「分析・企画・導入・実行」が重視されてきましたが、イノベーターの5つのスキル—①違うことを関連づける、②現場に異議を唱える質問をする、③新しいことを観察する、④違う人たちと繋がる、⑤実験して失敗から学ぶ—はホームでは学びにくく、アウェイでこそ培われます。キャリアブレイクは、まさにこの越境を実現する手段となると語りました。
今なぜキャリアブレイク?”現代版お遍路”導入のカギと3つの効果(北野貴大氏)
北野氏は、キャリアブレイクを「視野を広げて転機を過ごすためのセルフマネジメントの文化」と定義します。これは欧州では一般的な文化ですが、日本ではまだ新しい概念です。しかし、石山教授の研究室が日本で初めて論文化したことがきっかけとなり、少しずつ社会に広がりを見せ、先月はフォーブスジャパンに取り上げられ、日経新聞社の調査では「我が社に導入してほしい制度」の第2位に選ばれるなど、注目度が高まっています。
調査によると、常用労働者35人に1人、年間約147万人がキャリアブレイクを経験しています。目的は4つに分類され①LIFE型(妊娠出産、病気、家族の介護など人生の安定を目指す)②休息型(職場が合わない、働きすぎ、激務による体調不良など心身のケア)③感性型(疲れた、人生に節目をつくりたいなど感性の回復)④パワー型(大学院進学、ワーキングホリデー、世界一周、資格取得など)としています。年齢層は30代が最も多いですが、40-50代も23%と、どの年代でも人生に節目を作る動きがあります。
キャリアブレイクのきっかけは6割の方が「心身の不調」であるにもかかわらず、ブレイク期間中は内省、自己探求、人間関係の見直し、新しい出会い、趣味、創作活動、旅行、学習、地域活動、コミュニティ参加など、多様な活動に取り組んでいるのです。単なる休養ではなく、人生を積極的にセルフマネジメントしている様子が見られ、心身の状態はほとんどの人が改善し、96.4%が「他人に勧めたい」と答えています。
良い転機を迎えた人には共通のプロセスがあることが明らかになりました。「違和感→離れる→内省→対話→意味づけ→自発→価値観の変容→出会い→俯瞰→再起」という10ステップです。ありたい姿と現状の乖離から違和感が生まれ、立ち止まる選択をする。内省し、対話を重ね、意味づけをすることで自発的な関心が生まれ、価値観が変容する。そして新しい価値観を持つ人と出会い、世界の広さを俯瞰することで、自分の役割やポジションが見えてきて再起につながります。
このプロセスで鍵となるのが「サードプレイス」との出会いです。家(FIRST PLACE)でも職場・学校(SECOND PLACE)でもない第三の場所で、新しい価値観や視点を得ます。キャリアブレイク研究所は100以上のサードプレイスと提携し、”現代版のお遍路”を目指しています。コミュニティ、ゲストハウス、プロボノなどの多様な選択肢を提供し、月間1万PVの利用があります。
企業への研修でお伝えしていることですが、キャリアブレイクによる3つの効果が見えてきました。第一に「お互いさま」の風土が生まれます。資格取得、不妊治療、介護など、実は様々なブレークを取りたい人が一つの部屋に集まることで、多様性への理解が深まります。第二に、立ち止まる時間が「罪悪感」から「人生をリセット・充電・探求・視野を広げる機会」として捉え直されます。第三に、転機の過ごし方が共通理解になります。「みかん農園に1週間入っておいで」「ホームステイいいじゃないか」といった具体的なアドバイスが自然に出るようになります。北野氏は「社会にバッファーを作りたい。個人を尊重し循環を作る太陽のようなマネジメントが求められている」と語りました。
育休をはじめとした多様なブレイクを組織の力に(スリール代表堀江)
堀江は、仕事と子育ての両立意識と実態について調査した『両立不安白書2025』の調査結果を紹介しました。男女ともに約6割が両立不安を抱えており、特に男性は、子どもがいる人の66.3%が「両立不安が原因で転職・退職を考えたことがある」と答えています。背景には「男性は家族を養うために稼ぐべき」といった固定観念があります。興味深いのは、働き方の柔軟性と仕事の充実度の相関です。「時間制約があっても管理職を担える環境」と答えた人ほど、エンゲージメントが高くなっています。
企業では若手を中心に優秀な社員の離職がすでに社会問題化し始めており、10年後にはマネジメント層が不足すると推察されます。一方でシニア層は増加し、介護という時間制約を抱えます。「今から時間制約の有無にかかわらず管理職を生み出せる環境を作ることが重要」と強調しました。人事施策が成果を出すまでには5つのプロセスがあり、鍵となるのが管理職の「アンラーニング(学びほぐし)」です。古い経験から得た教訓を一度手放し、新しい教訓を引き出すプロセスです。弊社の「育ボスブートキャンプ」は、部長以上の役職者に1週間、16時で仕事を終えてもらい、食事作りや育児を体験していただきます。その結果仕事全体が効率化され、権限移譲が進み、部下の3割以上が「上司が変わった」と答えた、と語りました。
人生100年時代。ライフキャリア支援やキャリアブレイクに関する価値観のアップデートの必要性(石山教授×北野氏×堀江)
「後半のディスカッションでは「価値観のアップデート」がテーマとなりました。

ライフキャリア支援・部下の視点を持つことは生産性向上につながる
石山教授は「社員や部下のライフキャリア支援・DEI支援は単なる”個人の働きやすさのため”、”社会的にやったほうがいいこと”ではなく、結果的に企業経営に役立つということを理解してほしい。部下との価値観がすれ違うということは業務面でもすれ違いにつながる。自身のアンコンシャスバイアス(潜在的な固定概念)に気づき、ライフキャリアを支援することは必ず組織の生産性向上につながる」と強調しました。
堀江は、「部下の視点を持つことが大切というと『上司がそんなことをしなきゃいけないのか』と言う人がいる。部下の視点を持つことは、部下への任せ方がわかるということ。部下の視点を持つと業務移譲しやすくなり、自分の負担が減り、組織マネジメントがうまくいくことを知ってほしい」と補足しました。
マッチョイズムからの脱却とキャリアブレイクで持続可能で幸福なライフキャリアへ

「働き続けるのが当たり前という価値観をどうアップデートする?」という問いについて、石山教授は「二項対立にしないことが重要」と語ります。「マッチョイズムが悪いか、働き続けるのが悪い、という対立構造で議論すると、『では規制すべきか、規制緩和すべきか』という出口のない対立に陥ってしまう。そうではなく、自分の人生なのだから、手放してみるという選択肢もあることを示すべきです。そこに活路がある。」と、社会の変化の必要性を強調しました。
北野氏は、「石山教授とキャリアブレイクという文化を進めていく際に『企業を悪者にしたり、問題に対して意見をぶつけるのではなく、こういう視点もいいんじゃないという”共感”の文化を作っていきたい』という言葉に感銘を受けた。二項対立は永久に終わらない」と言及しました。
堀江は時代の変化と男性の生きづらさについて触れ「高度経済成長期から、社会全体がそこに合わせてきました。その時代を頑張ってきた方々には感謝と尊敬しかありません。でも、男性は本当にかわいそうだと思うんです。家族のためと本気で思って家庭を顧みずに働き続けた結果、妻や子どもからの愛情は失われ、家庭に居場所がなくなり、定年後に熟年離婚を叩きつけられる。学校や会社が終わったあとの居場所は地域です。そして地域社会のパスポートの一つが子育てですが、それを会社や国によって奪われてしまった結果、孤独死してしまう。ブレイクすることは”人間回帰”することでもあります。男性だから、会社に勤めているからといって、本来人間が人間として享受できるはずの文化的な生活、人権が奪われるべきではありません。労働人口減少を考えても、キャリアブレイクすることで長期的に労働・生産を行っていくことの重要性がもっと知られてほしい」と熱い想いを語りました。
石山教授は「性別役割分業の議論になるとき、女性に焦点が当たりがち。実は男性も生きづらさを薄々感じているが、認めることもできない」と指摘します。「それを強いてきたのは社会であり、会社なのですが、個人としてもこれまでの働き方・生き方を、今更放棄できない。これは『サンクコスト(埋没費用)の罠』と同じで、30年40年頑張って築いてきたものを今放棄してしまった方が実は幸せになるのに、過去の投資を手放せない。でも、手放してみると、本当にいろんな何かいいことが見えてくる。飛び込んでみる価値はあると思います」と強い言葉で語りました。
属人化解消の秘訣と個人と組織の多様性
「マネージャーに集中する”穴埋め・配置”の負荷をどう軽減すべきか」という問いには、石山教授が具体的な解決策を示しました。「業務の棚卸しと見える化、そして属人化させない仕組み作りが必要。実はライフキャリアを優先している企業は、どの企業も大抵、業務の棚卸しをものすごくやっています。業務を見える化すると同時に、それを属人化させないために見える化した業務をみんながマルチにできるような仕組み作りをしている。これは悪循環と好循環の問題です。4時に帰らなければならなくなったら、ミーティングが効率化され、権限移譲が進み、すべてが変わります」
堀江は組織がキャリアブレイクなどの多様性を受け入れる施策を進める上での課題も指摘し、「日本企業が伝統的な人事評価をダイバーシティ重視の評価に変えた時、短期的にはチームの生産性が一時的に下がる可能性があります。なぜなら、今まであまりにも無限定性に頼りきっていたから。でもこれからの時代にこれをやり続けると、エンゲージメントや生産性が落ちる一方なので、どこかで切り替えて人事評価を根本的に変えるべきです。長期的に見れば必ず生産性が上がっていきます」と力説しました。
参加者から「経営幹部の4つの実行力とイノベーターの5つのスキルは一人の中で共存できるのか」という質問がありました。石山教授は「イントラパーソナルダイバーシティ(一人多様性)とインターパーソナルダイバーシティ(個人間の多様性)の二段構えで考えるといい」と答えました。「基本的には、ホームで実行力を培い、アウェイでイノベーターのスキルを培う。自分の中に両方の経験を持つ『一人多様性』を目指します。”両利きの経営”という言葉もあるが、両利きのマネージャーの方が生産性が高いという統計もある。ただし得意不得意があるので、そんな時はインターパーソナルダイバーシティで実行力が得意な人とイノベーターが得意な人がチームとして補い合うという二段構えが重要です」と述べました。
おわりに
最後に北野氏は「ライフキャリアを無視して経済成長する会社があってもいい。でも、ライフキャリアを大切にしたい会社は今変わり始めていて、そのためのロジックや方法がたくさん出てきている」と述べ、堀江は「個人としては、自分の心の声を聞いてあげてほしい。その声を聴いてあげようとしている組織には、貢献しようという人が集まる。そういう会社が選ばれていく」と語りました。
石山教授は「10年前にキャリアブレイクやライフキャリア教育、ダイバーシティの話をしても、ここまで注目されなかった。でもこのような文化が花開くのは必然であったように思う。まだまだ足りないし、どんどんチャレンジして社会を変えていける余地がある。5年後には『5年前はまだキャリアブレイクが新しい概念だったよね』と振り返れるくらい、社会に定着しているといい」と、未来への期待を語りました。

働くことから一時的に離れる「キャリアブレイク」は、人生をセルフマネジメントし、視野を広げ、自分を取り戻す貴重な機会です。個人にとっては、心の声を聞き、越境し、新しい価値観と出会うチャンスとなります。組織にとっては、多様性を受け入れ、マネジメントを進化させ、持続可能な成長を実現する鍵となります。そして社会にとっては、人口減少時代に適応し、一人ひとりが生き生きと働ける未来を作る文化となります。
「ブレイクしながら働く」生き方は、もはや例外ではなく、これからのスタンダードになっていくでしょう。北風のように離脱を嫌うのではなく、太陽のように個人を尊重し、循環を生み出す。そんな社会への転換が始まっています。
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