レポート

ジェンダーギャップ解消から探る地方創生|自治体の未来を考える クロストークイベント

公開日:2023.08.10更新日:2023.08.31sourire staff

若者世代のライフキャリアに対する意識醸成やジェンダーギャップ解消に向け先進的な取り組みをされている3つの行政の皆さまをお招きし、『ジェンダーギャップ解消から探る地方創生~“ここで活躍したい”と思える地域づくりのために~』を7月11日オンラインで開催しました。

特別メッセージ ~ウェビナーに寄せて

小安美和様 株式会社Will Lab 代表取締役
事業概要:地方×中小企業のジェンダーギャップ解消支援/女性のエンパワーメント

日本のジェンダーギャップ解消を推進するためには、都市部だけでなく、全国津々浦々で取り組みを進める必要があります。そして、それぞれの地域で政治、経済、教育などあらゆる分野におけるジェンダーギャップ解消を推進するためには、地方自治体がリーダーシップをとり、ビジョンを掲げ、戦略を策定し、予算を確保し取り組むことが重要です。推進する際には、各分野のキーマン(議会、商工会議所、教育委員会など)と地域のありたい姿を共有し、施策をともに考え、ともに推進する体制を構築することがポイントとなります。地域に暮らすひとが未来に向けて、自分ごととして考え、行動するための場づくり、サポートを自治体が担うことにより、本質的な変化が生まれると期待しています。

ジェンダーギャップ解消から探る地方創生~“ここで活躍したい”と思える地域づくりのために~開催報告

 

ご参加いただいたのは山形県山形市副市長 井上 貴至氏、兵庫県豊岡市くらし創造部ジェンダーギャップ対策室主任 得田 雅人氏、群馬県太田市企画部主任 山本 伸一氏の3名(五十音順)。今回のイベントでは冒頭、弊社代表 堀江が地方の人口減少に対してジェンダーギャップ解消という観点から課題提起を行い、 各都市における取り組み事例を共有、参加者全員によるパネルディスカッションという流れで進行しました。

6月20日世界経済フォーラム(WEF)が発表した国際ジェンダーギャップ指数において、日本は調査対象となった世界146カ国のうち125位。昨年から順位を下げ、主要7カ国のみならずアジアの中でも最下位という結果を見ると、ジェンダーギャップ解消が急務であることは言うまでもありません。堀江からはこうしたジェンダーギャップ解消が大都市よりも地方において急務であると説明を行いました。

なぜ地方がジェンダーギャップ解消を急がなくてはならないのか。ジェンダーギャップがある地域では、女性が「仕事で活躍できないのでは?」と感じたり、「子育てを自分が一手に背負わなければならないのでは?」と性別役割分担意識を強く感じたりして、「ここでは自分らしく生きられない」と 進 学や就職を機に都市部へ流出してしまう可能性があります。こうした事態を防ぐため、地方は個人・家庭・企業と連携してジェンダーギャップ解消に取り組み、若者世代が「ここには自分の活躍できる場がある」「ここなら子育てをしながら働き続けることができる」と思えるような、「自分らしく生きられる・働ける」地域創りに取り組むことが大切です。

では実際に各行政はジェンダーギャップ解消に向け、どのような取り組みをされているのでしょうか。今回は兵庫県豊岡市、山形県山形市、群馬県太田市の3都市に取り組みをシェアしていただきました。

ジェンダーギャップ対策室が中心となり市横断で課題に取り組む <豊岡市>

豊岡市での取り組みについて紹介してくださったのはジェンダーギャップ対策室主任 得田氏。豊岡市における2010年〜2015年の若者回復率(20歳代転入超過数の10歳代転出超過数に対する割合)は男性が52.2%だったのに対し、女性は26.7%。「このままでは市から若い女性がいなくなってしまう」という危機感が、ジェンダーギャップ対策室の立ち上げに繋がりました。2020年2月には「高校生ワークショップ」「20代ワークショップ」という2つのワークショップを開催。「ジェンダーギャップが解消された豊岡市の姿」を話し合い、その実現に向けて必要なアクションを考えるというところから取り組みを開始したそうです。

そこで出された意見を基に、市民委員で構成された「ジェンダーギャップ解消戦略会議」にて「ジェンダーギャップ解消戦略」を策定。現在は地域・職場・教育現場と連携し、戦略で定めた対応策を行っています。 政治・経済・地域など、各分野で活躍できる女性を育成することを目的として開講した「豊岡みらいチャレンジ塾」では、卒業生の中から実際に財産区議会初の女性議員も誕生しました。

得田氏は、「ジェンダーギャップ解消は過去の社会の有り様や人々の生き方を否定するものではなく、未来に向けた取り組みです。産業構造や人口構成の急激な変化に対応しながら、すべての人にとって生きやすい社会、持続可能な地域社会を創っていきたいと考えています。」と締めくくりました。堀江は「ジェンダーギャップ対策室という部署が存在していることで、市を横断してジェンダーギャップ解消に取り組んでいる点が素晴らしいと思います。」とコメントしました。

オリジナリティ溢れるプログラム・プランで課題に取り組む <山形市>

山形市での取り組みについて紹介してくださったのは副市長の井上氏。山形市の取り組みで世間から注目を浴びたのが資生堂と共同で開講した「まち、わたし、きらめくWomen’s Campus山形」。女性が抱える悩みや課題を女性自らが解決するワークショップ、東京にある先進団体を訪問する「TOKYOスタディトリップ」など、様々なプログラムを通して行政・企業・市民をつなぎ、地域活性と社会問題の解決を促進するプロジェクトです。

また、平成30年にスタートした「イクメン応援全力プラン」では①「イクメン応援説明会」の実施と育休取得プラン作成、②子どもが生まれた男性職員へ市長のお祝いメッセージ贈呈、③男性職員の育休取得状況を所属長が人事主管課に報告という3つを柱とし、トップ・上司・本人の意識改革に取り組みました。その結果令和4年度の山形市役所における男性育休取得率は、約73%にまで向上。井上氏は「男性が子育てに参加することは家庭にも職場にもメリットがあります。山形市では引き続き男性の育休取得推進に努めていきたいと考えています。」と意気込みを語りました。堀江も「ジェンダーギャップ解消を男性の家庭参画という点から市が実証されている、というのが素晴らしいですね。」と感想を述べました。

補助金の活用と継続できる“仕組み化”で課題に取り組む <太田市>

太田市での取り組みについて紹介してくださったのは企画部主任の山本氏。太田市では女性の起業を支援する「おおたなでしこ未来塾」を創設。なぜ女性の起業支援に力を注いだのか。そこには女性が得意とするスモールビジネスが地域経済の担い手であるということ、そして起業する女性とそのサービスを受ける住民が幸せになれば、地域全体の満足度向上に繋がるという想いがあったそうです。支援事業の対象者はこれから創業を目指す女性だけでなく、すでに創業している女性起業家も含めることに。対象者の幅を広げることで、女性起業家同士のネットワーク作りやビジネスに関する情報収集もサポートしています。

「おおたなでしこ未来塾」が他の女性起業塾と異なるのは、補助金を上手く活用しているところ。最初は地方創生補助金、3〜5年目は地域女性活躍推進交付金、6〜8年目は地方創生推進交付金を活用したそうです。また山本氏を始めとする「おおたなでしこ未来塾」の立ち上げ担当者が異動になっても活動を継続できるよう、事業の仕組み化と委託を検討。最終的に「一般社団法人なでしこ未来塾」を設立し、個人では受託できない仕事も一般社団法人として受託できる体制を整えました。

山本氏は「ジェンダーギャップの解消には時間がかかります。予算を確保しやすくするため補助金を活用する、立ち上げ担当者が異動してしまった後の体制を整えておくなどの対応策が必要です。」とアドバイスしました。堀江も「継続できる仕組み作りをするというのはとても大切なことだと思います。」とコメントしました。

仕事と子育てを“リアル”に学ぶプログラムを提供する <スリール>

3都市における取り組みのシェアを受け、堀江からも学生が仕事と子育ての“リアル”を体験できるワーク&ライフ・インターン についての紹介を行いました。このプログラムの大きな特徴は、①体験プログラム、②座学プログラム、③課題解決プログラムという3つから構成され、①体験プログラムでは 学生が実際に共働き世帯を訪問し、「働くこと」と「家庭を築くこと」をリアルに学ぶことができるというところ。

参加した学生からは「仕事と育児の両立はハードルが高いと感じていたけれど、プログラムを通して自分が両立している姿を思い描けるようになった。」といったコメントも寄せられ、このプログラムが仕事・育児に対するポジティブな意識を生み出していることが分かります。ではなぜこのプログラムよって学生の意識が変化するのか。それは共働き世帯をリアルに体験することで両親以外にも生き方のサンプルを増やすことができるからです。また受入れ家庭においても、学生に向けてキャリアを伝えることや、子どもが学生と楽しく遊んでいる姿を見ることにより、仕事と育児両立への意識がポジティブに変わるという効果も生まれています。

堀江は「ワーク&ライフ・インターンは若者世代が昭和の生き方・働き方・家族の在り方をアップデートすることができ、また学生をハブにして家庭や企業の変化も生み出す即効性のあるプログラムです。」と紹介しました。

パネルディスカッションを通して考える“ジェンダーギャップ解消のポイント”

最後は参加者全員によるパネルディスカッションを行いました。

−効果的な施策と熱量・財源を継続させるには

まずは「ジェンダーギャップ解消の為に最もクリティカルだと思う施策」と「施策の熱量・財源を継続させるための工夫」についてお伺いしました。太田市の山本氏 は「やはり女性管理職を増やすというのは有効。群馬県における部長級管理職の女性比率は46・2%で、これは県として女性活躍推進に力を入れて取り組んだ結果です。女性の登用率に関しては県と市町村で差はあるものの、全体として職員が“女性”“男性”といった意識なく働くことに繋がっていると思います。施策を継続させるための工夫としては先ほどご紹介したとおり、補助金の活用などが考えられます。」とコメントしました。

豊岡市の得田氏は「プール人材の育成というのも重要。豊岡市では男女の経験業務に差があり、女性自身が管理職になることへ抵抗感を感じていました。

そこで現在は中堅職員や次世代リーダー向けの研修を開催し、3〜5年を目処に男女分け隔てないジョブローテーションを実施するようにしています。施策を継続させるには部署の垣根を越えて、組織全体・市全体で取り組むことが大切だと思います。」とアドバイス。

山形市副市長の井上氏は「施策の中身も大切ですが、地域づくりは楽しいという感覚、楽しいから参加するという意識も大切なのでは。山形市では財源確保の工夫として、施策の社会的・地域経済へのインパクトをきちんと計測・公表し、地元の企業からも寄付金の協力が得られるようにしています。」と提言しました。

−当事者意識をもってもらうためには

2つ目のテーマは「ジェンダーギャップの課題を他人事ではなく自分事にしていくにはどうしたら良いか」。山本氏は「“自分でやってみる・経験してみる”ことはとても大切。男性はぜひ看護休暇や育休を積極的に取得してみてください。実際経験してみることで育児や仕事を調整する大変さを実感できると思います。」と男性の育児参加を推奨。

得田氏は「豊岡市では官民連携の『豊岡市ワークイノベーション推進会議』を設立し、ジェンダーギャップの全体像と解消のメリットについて学ぶ場を設けています。参加者が同じ『危機感』と『嬉々感』を持つことが、ジェンダーギャップの課題を自分事として捉えるきっかけになるのではと考えています。」とコメントしました。堀江も「危機感の共通認識というのは非常に大切だと思います。」と賛同を寄せました。

−若い世代にアプローチするには

3つ目のテーマは「若い世代からジェンダーギャップ解消する有効な方法」について。井上氏は「山形市に令和4年にオープンした『コパル』という施設は、性別や障害の有無に関わらず全ての人が楽しめるインクルーシブな施設です。子どもの遊び場ではパパの姿を見かけることも多く、若い男性の育児参加に貢献しています。」と山形市の事例を紹介。

堀江からは「ワーク&ライフ・インターンについての紹介で触れたように、新しいロールモデルと体験の機会を提供することが大切だと考えています。弊社も若い世代が令和の新しい生き方・働き方・家族の在り方にアップデートできるよう事業を通してサポートして行きたいと考えています。」と語りました。

−今後の取り組みについて

最後に3名のゲストへ「今後特に力を入れて取り組んで行きたいこと」をお伺いしたところ、得田氏からは 「ジェンダーギャップ解消に関して悩んでいる企業のサポート」、井上氏 は「20代女性の流出を防ぐための魅力ある地域作り」、山本氏 は「予算0でもできるジェンダーギャップ解消策の検討」との回答をいただきました 。

ジェンダーギャップ解消のヒントを数多く得ることができ、充実した1時間半となった今回のトークセッション。堀江は「地域が個人・家庭・企業と連携しながら、ジェンダーギャップを解消していく仲間になっていきましょう!」と呼びかけイベントを締め括りました。


スリールでは、「子育てをしながらキャリアアップできる人材と組織の育成」とテーマに、女性の心理を徹底的に分析した講義や、擬似体験型ワークを取り入れた実践的な研修の他、講師による講演・セミナーを提供しております。
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