[堀江×トップランナー企業]経営視点での女性活躍推進

「バリュークリエイター」を社員の定義とする株式会社ポーラ。 一人ひとりの「個性活躍」を目指し、共創するリーダーを育てる

公開日:2024.12.17更新日:2024.12.17sourire staff

女性活躍推進やダイバーシティ研修などを行うスリールの代表堀江敦子がDEIの先進企業の代表らにインタビューし、人材育成の悩み打開のヒントをお伝えする企画第三弾。株式会社ポーラ代表取締役社長、及川美紀様にお話を伺いました。

(右)株式会社ポーラ 代表取締役社長 及川美紀 様 (左)スリール代表 堀江敦子

(右)株式会社ポーラ 代表取締役社長 及川美紀 様 (左)スリール代表 堀江敦子

 

ダイバーシティの本質に気づくきっかけになった「女性社長就任」

堀江:2020年に社長に就任された際、各メディアなどで「女性社長」と紹介されたことに驚かれたそうですね。

及川:ポーラ・オルビスホールディングスの事業会社の半分は女性社長です。ですから、それほど珍しいことだと思っていませんでした。「女性であることにこれほど驚かれるのか」とこちらが驚いたほどです。

女性が企業のトップになることが世の中の話題になることに対して、日本のダイバーシティの遅れを感じ、「ポーラにとってのダイバーシティとはなにか」と、考えるきっかけになったのは事実です。

私が入社した頃は、新入社員は男女半々。でも、会社に残って管理職に上がっていくのは男性社員でした。それがジョリティとなると、マイノリティの可能性がかき消されてしまう。そこについてしっかり確認しあうことが重要だということを、私が社長になってから改めて合意形成しました。

堀江:「D&Iアワード2023」において、最高評価の「ベストワークプレイス」に認定されました。100周年を迎える2029年までに、女性役員を30~50%、女性管理職比率も50%以上にすることを目標にされています。女性活躍を経営戦略の主軸に据えていらっしゃる意味を改めて教えてください。

及川:第一に、ポーラという会社は人の可能性を信じる会社です。社外の個人事業主の方はもちろん、社員も採用試験を受けて、すごい倍率をクリアして入ってきている時点で、すべての人のポテンシャルは高い。これがまず大前提。一人ひとりの能力を高めていけば組織力は上がりますし、これは、企業の総合力に関わることですから大命題だということを経営陣で合意しているというだけの話なのです。

昔から、トップダウンの抜擢人事で女性管理職が生まれていました。チャレンジさせる風土はありましたし、他社に比べたら女性管理職が多いという認識はあったのです。それが、いざ見える化、数値化してみると、実は25%程度しかいないということが見えてきました。

管理職候補のリストを見ても男性が多く、違和感があり、改めて「なぜ、管理職になるのは男性なのか」「本当に優秀な人材はどういう人材か」という疑問を突き詰め、2018年ごろ、前任の社長の時に、管理職要件を切り替えました。

 

管理職要件を見直したことで生まれた大きな変化

堀江:管理職要件の切り替えについて、具体的に教えてください。

及川:総合職入社の男女比率は50%ですから、同じように育成していけば管理職の数は同数ぐらいになっていてしかるべきなのです。しかしながら、そうはなっていなかった。ですから、女性の管理職比率を上げるためではなく、「当社にとって本当に優秀な人材とは」という疑問を掘り下げ、管理職要件を見直しました。

2018年にコンピテンシー、すなわちアセスメントで評価してもらうための管理職要件を刷新。2017年まで「組織で成果を出すプロフェッショナル人材」と定義していたのを、「共に創り出す、共創型リーダー」に変えました。

業務的な部分だけでなく「対話力」「感受性」「訴求力」「多様性」「育成力」といった要件も加えて、より多面的にポテンシャルを見てもらえるようにしたのです。それでも、女性管理職比率は30%までしか上がらない。どうしてこのようになっているのだろうと、私が社長になってから、2020年に再度見直しを行いました。

また、管理職クラスを対象に研修を実施するなどして、意識改革を図り、新しい要件で管理職の候補者をピックアップしたら、女性が一定数入ってくるようになりました。

2017年のエントリー数はだいぶ少なかったのですが、2020年には、外部アセスメントの推薦段階で多くの人が手を挙げるようになり、その後の試験のエントリーも2017年の4倍まで伸びました。

これによって、経営層は、自分たちがこれまで相当な強いバイアスの中で人を選んでいたのだということに気づきました。

堀江:自分で試験にエントリーするのではなく、まずは外部アセスメントへの受講をするというクッションをつくり、外部アセスメントで自分がマネジメントに向いている部分があることが分かることで、試験へのエントリーがしやすくなったという事ですね。また、「共創型リーダー」を優秀な人材と捉え直したことで、多様なリーダーが生まれるきっかけになったのではないでしょうか。

及川:外部アセスメントは、実際に管理職になるかどうかは別として、受けること自体が自分の学びになります。もちろん、その後、ワークライフバランスを考えて、管理職試験を受けないという選択をする人もいますが、それについては男女は関係なくなってきています。

最初から試験を受けるのではなく、アセスメントのクッションを作ったことは、その後のエントリー数に影響があったと思います。

 

人材委員会と評価調整会議でサクセッションプランを検討

堀江:長く続く企業さんでの改革は、ハレーションも大きいのではないかと想像します。

及川:元々、長く続く化粧品販売という営業色の強い会社ですから、上司の言うことを割と具現化する上意下達みたいな人たちが必要だった時代もあります。95年続いてきた企業ですから、同一性も強い。

しかし、今の時代、地域の個性もそれぞれ違ってくる中で、上司や会社の言うことをただ遂行するよりも「この仕事は、こうした方がいいのではないか」という声が上がる方がいい。若い社員が「自分は経験ないから」と言って意見を出さないよりも、デジタルネイティブ世代ならではの新しいアイデア発案や発言ができる方がいい。誰でもものが言える組織とそういう環境を生み出せるリーダーを育てていく必要があります。

私たちは社員のことをバリュークリエイターと位置付けています。まさに、「会社に新たな価値を生み出す人」と社員を定義したとき、一人ひとりのバリューを上げられるようなリーダーがいなければ、可能性を伸ばせませんし、もったいない。ですから、企業として「こうありたい」という姿からバックキャストしていくうちに、数年かけて、経営層も変わってきたというところです。

堀江:社員一人ひとりはバリュークリエイターであり、そのメンバーを率いるリーダーは「共創型リーダー」であるという点、一貫した人材へのメッセージで素晴らしいですね。また御社には、人事部と取締役会で作られている人材委員会があり、人事と取締役で連携して人材育成を行なっていらっしゃると伺いました。

及川:人事部と取締役会で構成される人材委員会と、評価調整の場である評価調整会議があります。

人材委員会は、ダイバーシティの観点で人を見ているか、可能性に蓋をしていないかどうか、人事部が持ってくる不安に対して、役員が、「もう少し下の階層まで見てみよう」と提案をしたり、経営層が他部署の管理職のメンタリングを行うことで、社員の理解を深めていったりしています。

人材委員会は、人事異動や昇格を視野に入れたプランニングなので、課長のちょっと前ぐらいのところから個人レベルで見ていきます。どういった人が推薦で上がってきているのか。誰が試験を受けると言っていて、誰が断ったのか。なぜ今回彼女は辞退したのか。この人はなぜアセスメントを受けないのか。それらを細かく聞いていきます。

それ以上に時間をかけているのが評価調整会議です。ここで取締役が見るのは、管理職以上の人たちです。なぜこの人の評価がこれほどまでに高いのか、なぜこの人は今期成果が出せなかったのか、というようなことを人事部が上長からのフィードバックを受けながらサクセッションプランを考えていきます。

評価調整の場ではあるのですが、今回たまたま評価が80点だったとしても、「じゃあ、この人を育てるために部署を変えてみようか」など、経験のための異動や、適材適所のための異動についても丁寧に検討できるわけです。

 

取締役が社員のことを理解するためのメンター制度や対話プログラムで一枚岩に

堀江:2つの組織で多角的に評価や調整を行っていくことでバランスが取れているのですね。2020年に、及川さんが社長になられてからのDEIへの独自の取り組みについてもう少しお聞かせください。

及川:取締役会で人材プールを確認する場を設けること。また、取締役が社員をよく知るために、自分の直属ではない課長クラスの人のメンタリングや対話プログラムなどを通じて、社員の顔が見えるようにしていくことでした。取締役3人と、男女取り交ぜたリーダーたちとの座談会なども開催しました。

堀江:取締役会の反応はどうでしたか。

及川:「この人の話、面白いね」とか「教科書的なことばっかり言っているよね」というようなことが見えてくる。そうするうちに、取締役たちも、「社員がどうのではなく、自分たちの中にバイアスがあって既定路線でやってきていた」ということに気づくわけです。

優秀な人材を育てられていないのは、組織の仕組みとその風土に課題がある。それに気づくと、変えていくしかありません。そんな、視点合わせのような時間を3年くらいかけて取りましたね。視点が合うと一枚岩になれますから。

 

目指すのは「個性活躍」。可能性が育つ企業でありたい

堀江:取締役を含め、社内での理解をどう得ていくかが大きな鍵ですね。「2030年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が30%になるように」という目標を政府が定めていますが、多くの企業が苦悩されています。DEIを進め、企業全体に変革を起こすために必要なことは何でしょうか。

及川:可能性を開いて、組織力の強化にまで持っていくのがダイバーシティですが、実は、人材育成をしていくと、ダイバーシティに取り組まざるを得なくなっていきます。どちらも切り離せません。

社員のポテンシャルを高めようと思ったら、産休に入る年代よりも前に女性たちに対してキャリアの早回しが必要だったり、産休をあけて戻ってきた人には復職支援や時短、リモート制度などが必要だったりします。環境制度の見直しに目覚めていくという感じでしょうか。

堀江:互いを助け合うコミュニティ活動(ワーキンググループ)も活発だと伺いました。

及川:以前から、社員同士で助け合う風土を作りたいとは思っていたのですが、2020年くらいからダイバーシティを掲げたところで、自然発生的に課題認識を持っている人たちが集まって、育休中のママをサポートするワーキンググループや男性育休サポートチームが生まれています。

堀江:御社が考えるダイバーシティ&インクルージョンのゴールについて教えてください。

及川:ポーラは元々、人を育てる仕事であり、人の可能性を見てきたビジネスモデルが土台にあります。ビューティーディレクターをショップオーナーにしていくのは、まさに可能性を育てていくこと。「この人にできるのか」という内向的な人が、ショップオーナーになって人生を切り開いていくのを目の当たりにしてきました。「誰も持ってない才能ってこの人にあるよね」とか、ビジネスの過程の中で、「Aさんはここが良くて、Bさんはここがすごいから、組み合わせれば最強」と、可能性を見出していく。

当グループでは、ダイバーシティ&インクルージョンのゴールを「個性活躍」という言い方をしています。性別や年齢などの属性も関係なく、それぞれの個性を磨いていく会社でありたい。互いを認め合いリスペクトする風土があって、介護中であろうが、育児中であろうが、今あるポテンシャルを最大限発揮するきっかけになるといいと思っています。

 

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