レポート

【開催レポート】ジェンダーインクルーシブな社会へ〜誰もが働きやすい共創型リーダーシップとは〜

公開日:2025.05.29更新日:2025.05.29sourire staff

2025年国際女性デーのテーマは“Accelerate Action(行動を加速する)”。女性の更なるエンパワーメントを加速させるには、ジェンダーインクルーシブな視点が欠かせません。そこで弊社は、元株式会社ポーラで代表取締役社長を務め、現在は一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事の及川 美紀氏、山田進太郎D&I財団COOの石倉 秀明氏の2名をお招きし、ジェンダーインクルーシブな社会の実現、そして実現のために必要な共創型リーダーシップについてトークセッションを行いました。このレポートではその一部をお伝えします。

登壇者(五十音順):

◾️一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事/元株式会社ポーラ代表取締役社長
及川 美紀氏

東京女子大学文理学部卒。1991年株式会社ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。2009年商品企画部長、12年に執行役員、14年に取締役就任。商品企画、マーケティング、営業などを経験し、2020年から同社代表取締役社長を務め、24年末退任。2021年からはダイアローグ・ジャパン・ソサエティの理事に就任。インクルーシブソーシャルエンターテイメント対話の森ミュージアムの運営サポートにも携わっている。

◾️山田進太郎D&I財団COO
石倉 秀明氏

株式会社キャスターの取締役CROを経て、2024年から山田進太郎D&I財団COOに就任。Alternative Work Labの所長も兼務し、柔軟な働き方の普及や多様なキャリアの実現に向けた研究等を行う。2025年から慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程に進学。FNN系列Live News α、ABEMAヒルズコメンテーターも務める。

右上:山田進太郎D&I財団COO 石倉 秀明 氏/下:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事/元株式会社ポーラ代表取締役社長 及川 美紀 氏/左上:スリール株式会社 代表取締役 堀江 敦子

多様性を高める共創型リーダーシップを求める理由

最初にお話しをお伺いしたのは、昨年まで株式会社ポーラの社長を務めた及川氏。約1,300人程度という限られた従業員数で、メンバー1人1人が主体的に仕事しなければ生産性が上がらない状況の中、“共創型組織”について考え行き着いたのはEquality(平等)とEquity(公平)の違いだったそうです。

日本では“女性活躍”という文脈で捉えられがちな“Diversity(多様性)”。しかし本来は「個性活躍」、「『私なんか……』撲滅」を意味しています。DEI実現は、まず全ての人の存在価値を認め、力の発揮を期待すること。それには可能性への投資、リスキリングが必要となります。そしてその人が持つ力を導き出すことができる組織風土も重要です。DEI、リスキリング、組織風土、これらが合わさって企業文化が創られます。

この3つに影響を与えるのがリーダーの思考とインクルーシブなアクションです。リーダーが支配的・指示命令的だと、多様性の高いメンバーが揃っていてもチームはレンガ壁のようになってしまいます。一方で、それぞれ形や大きさが異なっていたとしても、石垣のように上手く組み合わさることができれば、メンバーそれぞれがそこにいる意味が出てきます。今後目指すべきは“石垣型組織”。メンバーに苦手を克服させるのではなく、得意を引き出し、チームにおける役割や意味を明確にすることが大切です。

リーダーには大きく分けて、相手を変えようとする指示命令型の「支配型リーダー」と、相手の良いところを引き出し、自らが変化していく「尊敬型リーダー」の2種類があると及川氏は言います

及川氏の著書、『幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条』にもリーダーの在り方、そして幸せなチーム作りに必要な7か条が紹介されていますが、今回及川氏が強調したポイントは3つ。

①愛のループを自分からはじめること
「メンバーの良いところは?」という質問をすると、ほとんどのリーダーは「すごいところ(SKILL)」を考えます。しかしそれだけではなく「好きなところ(CHARACTER)」や「感謝しているところ(ROLE)」にも着目し、それをメンバー1人1人に対して直接伝えることが大切です。

②相手を変えるのではなく自分が変わること
仕事の手を止め顔を上げて「おはよう」と言っているかどうか。メンバーの話を遮らずに聞くことが出来ているかどうか。些細な行動を通して、メンバーへの関心や感謝の気持ちが伝わります。

③質問の投げかけ方
トラブルが起こった際、真っ先にリーダーが具体的アドバイスをしてしまうと、メンバー自身の考える時間や機会を奪ってしまうことに。まず必要なのは相手に考えてもらう質問を投げかけることです。質問には「大きな問い」と「小さな問い」の2種類があり、単純に手段を問う「小さな問い」だけでなく、「なぜだろう」「どうしたらいいだろう」という正解のない「大きな問い」を投げかけることができると、チームの思考の質が変わります。

 及川氏は「今何が起こっているのか同じ景色を見ながら、共に意見を言い合える環境を創ることが大切です。見え方は人によって違いますので、お互いの意見にしっかり耳を傾ける必要があります。」と訴えました。

職場と教育分野のジェンダーインクルーシブについて

石倉氏は、職場と教育分野の両方で活躍されているからこそ得られる知見を踏まえ、「職場や教育分野でのジェンダーギャップの現状」「その要因」「解決策としてのインクルーシブデザイン」の3点についてお話しいただきました。

①職場や教育分野でのジェンダーギャップの現状について
OECD平均や調査結果を見ると、日本はやはり依然としてジェンダーギャップ・ペイギャップが大きい状況です。その背景にあるのは、労働時間そのものや長時間労働を良しとする文化、「夜の付き合い」といった見えない評価基準。しかしそれ以外にも、実は「リテラシーユース(培ってきた能力や学力の活用)」という指標が低いことも見逃せません。日本ではスキルや能力を持っていながら、それを必要としない仕事にアサインされている女性が多く、実はそれがペイギャップの25%を占めているのではないかと言われています。

教育は進んでいる印象がある日本ですが、高等教育に絞るとジェンダーギャップ指数は107位、経済と変わらないジェンダーギャップが存在しています。都道府県別の4年制大学進学率は男性の方が女性より高い地域がほとんど。高等教育を受けてスキルを身につけていくことが難しく、スキルを身につけても社会に出てから過小評価されているという、2重のギャップが存在しています。

②日本の女性が能力を活かすことができていない要因について
PISAのデータでは15歳時点における日本における女性の数学・理科の学力はOECDで1位、世界的に見てもシンガポールに次いで2番目に高いという結果。そして、日本より女性が男性より数学が得意ではない国の方が、STEM分野に進む比率が高くなっています。つまり日本の女性は能力が高いにも関わらず、それを活かせてない要因があるということ。

石倉氏の考える要因は3つ。1つ目は教える側のジェンダーバイアス。ジェンダーステレオタイプの強い異性の先生が数学を教えると、女子の数学のスコアが有意に下がると言われています。2つ目はロールモデルの存在。ロールモデルに出会い、キャリアの進み方を具体的にイメージできるとプラスの効果があります。3つ目は進路選択時に影響を与える要因。男子は数学などの相対的スコアで進路選択を行いますが、女子は「同性が少ない環境を選ばない」傾向があると分かってきています。女性にとっては「自分がどういうところに行くと活躍できるのか」、「どういうところだと自分は自分らしくいられるのか」が重要になってくるのです。

③解決策としてのインクルーシブデザインについて
男女で進路の決定要因や活躍できる環境要因が異なるにも関わらず、制度仕組みは1つだけ。そしてこれを作っている多数が男性なので、インクルーシブを実現する上で非常に偏りがある事態になってしまっているのです。マイノリティとされる女性が本来の力を発揮することは、社会にとっても大きなメリットをもたらします。労働時間やリモートワークといった働き方、評価制度、管理職要件、教育で言えば入試形態多様化、クラス分けなど、今ある制度や環境が実は男性的なものになってないか見直しを行ない、社会全体でインクルーシブなデザインを実現していくことが重要です。

ジェンダーインクルーシブな社会を実現するために(パネルディスカッション)

最後は及川氏、石倉氏、堀江の3名でパネルディスカッションを行い、「経営陣をどのように巻き込んでいくのか」「育成時点(教育・企業・社会)におけるEquityをどう達成するのか」「DEIを組織へ落とし込んで風土・文化にするためには」という3つのテーマについて、それぞれの立場から提言を行いました。

1.経営陣をどのように巻き込んでいくのか

及川氏は外部コンサルも入れながら、人事部やコーポレート部門が未来の会社を考え経営陣と協働していく方法を提案しました。株式会社ポーラでは外部アセッサーを入れ、メンバーが持つコンピテンシーを外部目線で見ていくプロセスを取り入れたそうです。「経営陣は最初外部アセッサーの結果に疑義的でしたが、事実やデータを明確に提示されれば納得せざるを得ません。それは自分たちが持っていたバイアスと、メンバーが持つコンピテシーを発揮できる環境創りが出来ていなかったことを反省する良いきっかけとなりました」

石倉氏もデーターを基に経営陣と対話することの重要性について賛同し、その上で経営陣がデータの示す現状を受け止められる本気度があるかどうかも重要だとコメントしました。「経営陣の本気度を高める上で必要なのが“当事者意識”。以前、人事役員の方がご自身の娘さんが就職をされて不利な扱いを受け、初めてジェンダーギャップを自分事として考えるようになったという話しを耳にしました。これは偶発的なパターンですが、その人が当事者として問題意識を持つ瞬間をどう作るかは大切だと思います」

堀江も当事者意識や本人が経験をすることの重要性を改めて強調し、弊社が提供している「イクボスブートキャンプ」を紹介。管理職や経営者の方に5時で帰宅、夕飯作り、子供のお迎えという生活を体験していただくことで、“多様性の実態”理解につながっていると伝えました。

2.育成時点(教育・企業・社会)におけるEquityをどう達成するのか

及川氏が株式会社ポーラで最初に取り組んだのは管理職候補者リストの“見える化”。対象者の性別を言葉で記載するのではなく、「男性」は青、「女性」赤で色分けしてみることに。すると全体的に「赤」が少ないこと、リストの上位に「赤」は多い一方、下位には少ないことも明確になったそうです。これは誰もが認める“スーパーウーマン” は候補者に含められている一方、“普通に頑張ってる女性”が対象者として含まれていないことを意味します。「“普通に頑張る女性”も管理職として登用していかなければ、管理職比率15%以上は達成できません。基本的なことになりますが、候補者に対して平等にチャンスが与えられているか、リストのバランスは取れているかを確認していく作業が必要です。そのためにも『女性の候補者が少ないのでは?』ということを言える・見ることができる人、つまり人事部の役割が重要です」

石倉氏が強調したのは「機会の平等を作り続けること」。バイアスを防ぎ、環境要因が女性の選択肢に影響を与えることを踏まえると、制度や管理職要件、選抜プロセスを変えるために一定のアファーマーティブアクションが必要です。「女性の管理職候補者がいないか声をかける、女性を必ず管理職候補者リストに含める、女性に対して能力開発トレーニングを実施する。そうしたことを意図的にどれだけやれるか、結果の平等の前に機会の平等を作り続けることにコミットメントできるかが大切だと考えています。」また石倉氏からは女性の管理職が増えることで、女性従業員の給与が7%ほど増加するというデータも紹介されました。女性が管理職になると、実際の能力よりも低い仕事やアシスタント的な仕事にアサインされていた女性をアサインし直すことが容易となり、女性従業員全体の給与が増加。女性の管理職の増加はポジティブなループを生み出すことへも繋がります。

3.DEIを組織へ落とし込んで風土・文化にするためには

及川氏は「『自社の社員にはこういう活躍をしてほしいから、DEIをこんな風にやっていくんだ』という“肝”となる部分を言語化することが大切です。」と、言語化の重要性を強調しました。まずは“ありたい会社の姿”を描き、そのためにメンバーに対してどういった施策や機会の与え方をしたら良いのか、どういう問いかけや規則が必要なのかを考えルール化、ルールを全員が守って繰返すことで組織の風土や文化が創られていく。言語化された肝”となる部分=企業哲学が組織風土につながり、それは1人ではなく会社全体で作り上げていくことが大切です。

石倉氏は組織としての強さを生かし、マネージャー層の行動を変えていく方法を提案しました。人の意識は環境、行動、言葉の連続で変化していくものであることに触れ、「マネージャー層の意識にだけにアプローチして変えようとするのは難しいと思います。ディスアグリーアンドコミット=『個人として賛同していなくても組織としての決定なのでやる』という、組織の強さを生かした変革が必要です。」とコメントしました。

堀江からは改めて、DEIを風土・文化にするためには時間が必要であると解説しました。制度が変わり、風土ができるところまでに3年。定着するまでには5年以上。時間をかけて断念することなく、「問い」や現状とは違う形を継続していくことが必要です。現状とは違う形を実践・継続していくためには、株式会社ポーラで外部アセッサーが効果を発揮したように、外部の力を借りることも有効だと伝えました。


スリールは課題分析から実践までを伴走し、組織変革を支援する会社です。定量的・定性的な調査によって自社・自組織の課題を明確にすることができる「女性活躍サーベイ」、課題に応じたロードマップ・アクションプラン作成までを学ぶことが「女性活躍リードコンサルタント養成講座」、女性管理職比率を増やすための基礎的が学べる無料ウェビナー動画など、様々な研修・プログラムをご提供しています。DEIを推進するだけでなく、風土・文化として定着させるためにもぜひご活用ください。

 

 

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