レポート

【講演レポート】企業・行政がともにつくるジェンダー平等の現場づくりとは~仕事と子育ての「両立不安」は男性にも存在する⁉意識調査を解説~

公開日:2026.02.16更新日:2026.02.16sourire staff

人口減少が加速する中、特に地方では若年層の流出が深刻化しています。「女性版骨太の方針2025」でも「女性に選ばれる地方の実現」が重点施策に盛り込まれるなど、自治体が地元企業に働きかけ、地域社会のアンコンシャス・バイアスや働き方の課題を解決していく取り組みが求められています。

そこで弊社スリールは、前内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当)を担当され、官民連携DX女性活躍コンソーシアム 代表理事を務める矢田 稚子氏をお招きし、国の政策から企業の実践策まで、ジェンダーギャップ解消に向けた具体的なアプローチを探るウェビナーを開催しました。このレポートではその一部をお伝えします。

 

【登壇者紹介】
 ◾️前内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当
 矢田わか子政策研究所 代表
 一般社団法人 官民連携DX女性活躍コンソーシアム 代表理事
 矢田稚子氏

2016年から2022年まで、民進党および国民民主党所属の参議院議員として活動。2023年9月には、第2次岸田内閣において内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当)に就任。その後も、第1次石破内閣および第2次石破内閣において引き続き同職を務める。 2025年3月に内閣総理大臣補佐官を退任後、同年5月に「矢田わか子政策研究所」を設立。同年7月7日には、地域で働く女性のデジタルスキル習得・就労支援の促進を目指す「官民連携DX女性活躍コンソーシアム」を発足、代表に就任。さらに、同年6月より株式会社マイナビ、同年7月より株式会社MAIA、同年8月より株式会社Trive、Ms.Engineer株式会社、国際NGOプラン・インターナショナル、同年11月より株式会社Surpassの顧問に就任し、企業や国際機関・地域と連携した女性活躍・雇用促進の取り組みを展開している。国立女性教育会館特別客員研究員、学校法人金蘭会 千里金蘭大学客員教授も務める。

◾️スリール株式会社 代表取締役
 堀江 敦子

2010年11月、スリール株式会社を設立し、「子育てしながらキャリアアップする人材・組織を育成する」をテーマに、人材育成事業を展開。これまでに200世帯以上の子育てサポート、1万人以上の研修・コンサルティングを行っている。


■矢田稚子氏講演:国の政策と男女賃金格差解消への取り組み

なぜ今、ジェンダーギャップ解消が急務なのか

冒頭、矢田氏は「ジェンダーギャップ解消は人権問題ではなく、社会課題そのものです」と強調しました。

2024年の出生数は68万人と70万人を切り、毎年10万人ずつ減少している異次元の少子化が進行しています。特に地方では若年層の人口流出が深刻で、東京や政令指定都市以外の地域では労働力人口がどんどん減少しています。若者が「子どもを希望する数」も男性1.82人、女性1.79人まで減少しており、地方ほど影響が大きくなっています。

矢田氏は「性別役割分担意識が強く、自分らしく生きられないと感じて別の地域への移住を考える状況が見られます」と指摘しました。個人の意識、家庭内の役割分担、企業の働き方、地域、国というあらゆる方向性からジェンダーギャップ解消に取り組む必要性を訴えました。

賃金格差解消が経済成長の鍵

矢田氏が前内閣総理大臣補佐官として最も力を入れた政策施策が「男女賃金格差解消」です。2023年に30年ぶりに賃上げ3%を達成し、2024年も5%超の賃上げが実現しました。最低賃金も全国すべての県で1,000円を超え、現在は1,500円を目指しています。

しかし、日本の男女賃金格差は深刻で、OECD平均では男性が100に対し女性はおよそ90%ですが、日本は78%程度しかもらっていません。産業別・企業規模別にも格差があり、特に大企業ほど格差が大きいことが明らかになっています。

矢田氏は「女性の賃金が上がれば、相対的に全体も上がります。これはマクロ経済そのものの課題です」と説明しました。人材不足が深刻化する中、女性が労働市場に出ることで、(1)労働の量が増える、(2)多様な価値観によりイノベーションが起こり生産性が上がる、(3)稼ぎが消費に回る、という3つの経済効果を指摘しました。

働きたい女性310万人の眠れる労働力

政府の調査によると、追加で労働供給を望む女性は310万人います。いわゆる「年収の壁」の問題で働くことを控えている人や、育児・介護で時間制約がある人、スキル不足でマッチングできない人などが含まれます。

特に衝撃的だったのが学歴別の年収データです。大卒女性の36%が年収200万円以下、66%が400万円以下にとどまる一方、大卒男性で200万円以下はわずか2%、400万円以下も14%に過ぎません。

さらに、中学3年時点では数学的リテラシーや科学的リテラシーで女子は男子と同等かそれ以上のスコアを示すのに、理系分野に進む女性の割合は最下位レベルです。「日本は世界トップクラスの理数の頭脳を持ちながら、なぜか大学進学時に活かされていません」と矢田氏は問題視しました。

働き続けることの経済的メリット

政府が初公開した試算では、正社員を継続する場合を基準とすると、パート勤務は約1億4,000万円減、専業主婦になると約1億6,700万円減となり、出産後の働き方によって世帯の生涯可処分所得に大きな差が生まれることが明らかになりました。

年収の壁(103万円、130万円)を気にする声は多いですが、実際には200万円程度稼げば、夫の配偶者手当や税控除の減少分を上回り、世帯全体の手取りは確実に増えます。矢田氏は「古い情報のままでいてほしくありません。正しい情報を知った上で選択してほしいです」と訴えました。

都道府県別の男女賃金格差から見える課題

政府が初めて公開した都道府県別の男女賃金格差データでは、地域による差が顕著に表れています。

愛知県は自動車産業が盛んで男性の賃金が高いため、「専業主婦でいい」という意識から女性が早期に退職し、管理職も少なく格差が大きくなっています。一方、東京都は男性の長時間労働が突出しており、女性がサポート役に回らざるを得ず格差が生じています。

また、男女賃金格差が大きい県ほど若い女性の人口流出が進み、男性の未婚率が高く、少子化が加速するという悪循環が確認されました。

矢田氏は「女性にも選ばれる地域になるには、地方の賃金を上げていく必要があります」と指摘し、石破前総理も国会で「若者や女性にも選ばれる地域に」と発言したことにも言及しました。

官民連携DX女性活躍コンソーシアムの取り組み

こうした課題を受け、矢田氏は「官民連携DX女性活躍コンソーシアム」を設立しました。「地域×女性×デジタル」の3つの軸で、地域で女性のデジタル人材を育成し、地方中小企業の生産性向上を支援しています。

東京などの大企業から仕事を受注し、在宅勤務で実力をつけた人材が地域の中小企業に入り込んでDX化を支援する仕組みです。地域の企業・地銀・大学などと協業し、デジタル庁・男女局・経産省など各省庁も参加する横連携で進めています。

「自分の人生を変えたいと思う女性たちが各地で手を挙げ、デジタル研修を受けて賃金が倍になった例も多数出ています」と矢田氏。女性活躍推進を社会的責任ではなく未来への投資・成長へのチャンスとして捉えてほしいと呼びかけました。


■スリール堀江講演:両立不安白書2025と企業の実践策

女性の管理職パイプライン断絶の課題

弊社代表の堀江は、企業における女性活躍の実態と、男女1,278名の子育てと仕事の両立意識と実態調査である「両立不安白書2025」の調査結果を解説しました。

多くの企業では、全社員の女性比率は採用時から係長レベルまで維持されますが、課長職で突然10%以下に激減する「管理職パイプラインの断絶」が起きています。原因は大きく2つあり、【制度・体制の問題】と【意識の問題】と言われています。

【制度・体制面】では、管理職育成・登用のタイミングがライフイベント時期と重なる、育休後の評価が下がったまま、長時間労働前提の働き方などが挙げられます。【意識面】では、上司が無意識もしくは意識的に女性を管理職対象から除外している、女性本人も管理職意欲が低い傾向などがあります。女性の管理職意欲の低さに関しては、男性と比較して若年期にチャレンジングな経験が不足することや上司・周囲からの否定的メッセージを受けることなどもその要因としてあり、単なる女性の意識の問題で片づけられない部分です。

企業の女性活躍5つのステップ

企業の女性活躍段階を5ステップに分類し、自社の状況を把握するチェックリストを紹介しました。

STEP0 採用拡大期: 女性社員自体が少ない
STEP1 意識醸成期: 28歳前後の女性退職が多い
STEP2 両立実践期: 育休復帰後も就業継続が困難
STEP3 活躍シフト期: 就業継続はできるが管理職が増えない
STEP4 キャリアアップ期: 課長職は増えたが部長層が少ない
STEP5 エグゼクティブ育成期: 役員層の育成

東京の企業は主にSTEP3-4ですが、地方ではSTEP1-2が多くなっています。堀江は「両立支援だけでなく、【活躍支援】が重要です。育休を長く取るのではなく、両立環境を準備したうえで早期復帰を後押しし、復帰後は育児期だからと育成対象から外すのではなく、きちんと対話をしたうえでしかるべくタイミングで責任ある仕事・チャレンジングな有期プロジェクトを任せることが鍵です」と強調しました。

両立不安は男女共に存在する

スリールが2025年に実施した両立に関する実態調査(1,278名対象)では、仕事と子育ての両立に不安を感じた経験がある人は男女合わせて約6割(男性52.6%、女性67.1%)に上りました。

注目すべきは、男性の方が早い段階(結婚前、パートナーの妊娠前)で不安を抱えていることです。不安の内容も、男性1位が「経済的負担」、女性1位が「体力面・精神的負担」と異なります。

さらに、この両立不安が原因で転職・退職を考えた経験がある人は、育児期の男性が66.3%、子どもがいない男性も56.4%と、女性よりも高い割合でした。「男性の方が働き方を変えづらく、組織が変わらなければ違う会社に行くという選択をしています」と分析しました。

興味深いことに、両立不安を抱えている人ほどキャリア意識が高く、管理職やスペシャリスト志向が強い傾向も明らかになりました。

時間制約があっても管理職を目指せる組織へ

堀江は「5年10年後の人口構成を見ると、シニア・再雇用者が増え、若い世代は減ります。今から時間制約ある人であっても管理職を目指せる組織を作らなければ、マネジメント層が枯渇します」と警鐘を鳴らしました。そのために女性活躍の課題を調査分析し施策を立案・実行できる体制づくりはもちろんですが、管理職・経営層が時間制約のある働き方を体験するという新しい体験プログラムを提案しました。

弊社スリールが開発した「育ボスブートキャンプ」は、役員や管理職が1カ月間17時退社をして育児や家事体験を実施することで、体感するプログラムです。実際に会議の効率化、権限委譲の促進、妊活や介護をする男性社員への理解深化などの効果が出ています。


対談:官民連携で生み出す「現場」の変革

変化への機動力をどう高めるか

堀江の「変化を恐れる方も多い中、どう一歩を踏み出すか」という問いに、矢田氏は「とりあえず小さな組織でアジャイル型で試してみる一歩踏み出す勇気が大切」と答えました。制度を固定化せず、仮説として一旦やってみて、良ければ広げる柔軟性が必要です。また、意思決定権限を現場に委譲することで、スピード感を持った変革が可能になります。

堀江も「若い世代が声を上げることが大事です。このままじゃダメだという危機感を、データを使いながら伝えていくことが大切です」と同意しました。

データで危機感を可視化する

両氏が強調したのは、データによる危機感の醸成です。堀江は「社員年齢ピラミッドで5年後10年後の構成を見せると、『あと2-3年は長時間労働で逃げ切れる』と思っていた経営層がヒヤッとします。一人当たり3,000万円の育成コストが無駄になる試算を出すと、本気になります」と実例を紹介しました。

矢田氏も「女性が大卒でも年収200万円以下が36%という初公開データは、総理も2度見しました。こうした衝撃的なデータが変革の契機になります」と語りました。

自治体と企業の連携が鍵

地方の持続可能性について、矢田氏は「自治体は地方税で成り立っており、企業が稼ぐ力を高めないと成り立ちません。デジタル化などは行政がモデルとなって推進し、中小企業の指南役になってほしいです」と提言しました。一方で、「CIOなどのデジタル責任者を民間から招聘して改革を加速させる自治体も増えています。首長の意識が重要ですが、若い職員に任せてしまうことも一つの方法です」とも指摘しました。

堀江は「横連携の組織を作り、ジェンダーギャップ解消をテーマに各部署が協力する体制が必要です」と応じ、多くの自治体で既に取り組みが始まっていることを紹介しました。

女性だけでなく、全ての人の問題として そして父親支援の取り組み

矢田氏は「女性の非正規雇用の割合は54%です。時間制約があっても濃密な素晴らしい仕事をしてくれる可能性があります。長期的に見れば必ず戦力になります」と力説しました。

堀江も子どもに手がかかる期間は短期間(数年程度)であり、必ずフルタイムに戻ることができることに触れ、長期的視点での人材育成の視点が昼用であることを強調しました。

また、地域や企業による父親支援について、堀江は京都府の「ワーク&ライフ・インターン」を紹介しました。学生が働きながら子育てする家庭を訪問し、同府での男女間の家事育児格差が126分も縮小した事例を報告しました。矢田氏も「父親だけの離乳食教室など、父親が参加しやすい工夫をする自治体が増えています」と補足しました。

メッセージ

矢田氏は「男女雇用機会均等法施行から40年経っても、ジェンダーギャップ解消は遅々として進みません。それでも、女性活躍推進の取り組みを”社会的責任”ではなく、”未来への投資”として前向きに捉えてほしいです。変えることは”負担”ではなく”成長へのチャンス”です。次世代に誇れる時代を送りたい」と締めくくり、堀江も「一歩踏み出せば当たり前になります。子どもたちが自分らしく生きられる日本にしていきましょう」と呼びかけ、セミナーは盛況のうちに終了しました。

 


スリールは、「女性がなかなか定着しない」「両立支援はできているが、活躍支援はできていない」等、御社の女性活躍の段階を客観的に把握・分析し、最適な研修・プログラム・コンサルティング提案をいたします。

女性心理や背景理解をベースとした深い対象者理解を促し、組織内での「関係性づくり」や、「周囲への働きかけを相互に促す」仕掛けにより“本当に行動が変わる”、“組織まで変える”研修を強みとしています。

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