神奈川県横浜市の2歳の男児が、ベビーシッターに預けた後に埼玉県内で亡くなっていたという、本当に悲しく、辛いできごとが起きました。お子さんがいる方や、人生をかけて本気で家庭と子どもの幸せに取り組んでいる人達に対して、本当に衝撃的な事件です。
今回、マッチングサイトで手配された男性ベビーシッターが逮捕されたという経緯もあり、急激に「ベビーシッター」への注目が集まっています。保育業界の構造的な問題や、ベビーシッターや緊急保育での一時預かりなどについては、病児保育に取り組むNPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんが大変わかりやすく解説をしてくださっていますので、そちらをご覧いただればと思います。
http://www.komazaki.net/activity/2014/03/004462.html
私はいま、共働き家庭に大学生がインターンとして入り、お子さんをお預かりしながら、仕事と子育ての両立を学ぶ、キャリア教育のプログラムを提供しています。
これから大人になる若者たちが、働きながら子育てするご家庭と関わることにより、働くことと子育てのリアルな部分を学ぶ。一方、インターンを受け入れるご家庭は、家族のような関係性の中で、子育てをサポートしてもらえる。ということを目的としています。
この事件の真相はまだ分からない部分が多いですが、子育てのリアルと、これから親になる若者たちのリアルな声をよく知る者として、事例を踏まえた考えをまとめておきたいと思いました。
私自身はまず、「この時子ども達はどんな気持ちだっただろう」や、「仕事(なぜ2泊3日なのかはわかりませんが…)で2人の子どもを預けざるをえなかった、シングルマザーの状況」を思いました。事件後、様々な議論が起きていますが、幼い子どもを預けて働かなければならない状況をどうしたら解消できるかを考えずに、子どもを預けて働くワーキングマザーの是非や、ベビーシッターの資格の有無、インターネットでのマッチングの是非を論じていても、あまり意味がないと感じています。
日本が今後、労働人口の向上(女性の労働力の活用)や、少子化対策を本気で考えるなら、今回の事件で、当事者へのバッシングをして「子どもを預けてまで仕事をするべきでない」「子どもを人に預けることが子どものためにならない(=母親が見ておくのが一番いい)」と声を大きくするのではなく、本質的な働き方や子育ての環境に目を向けて欲しいと私は考えます。
●誰からも子育てを教えて貰えない、支えてもらえない、でも責められる
事件の後、こんなことを言っている後輩の声を耳にしました。彼女は、結婚を控えた25歳で、まさにこれから働きながら子育てをする世代です。
「仕事もしなきゃいけないし、子育てもしたい。けれど、働きながらの子育ては、不安がありすぎます。このままでは、そう簡単にこどもを産めません」
仕事と育児を両立しようにも、会社でも「早く帰ってごめんなさい」。保育園には「遅くなってしまってごめんなさい。」と言い続けて、多くの事を調整しなければやっていけません。子どもをみてもらった人に、「そんなに仕事忙しいの?」と、暗に非難めいた言われ方をされてしまった親御さんも数多くいます。
また、寂しい思いをさせたことについて、こどもに対しても「ごめんね…」と言い続けなければならない状況も多く、罪悪感が強まります。 働きながら子育てをすると、周りから責められているように感じてしまい、それなら仕事を辞めた方がいいと思ってしまうお母さんも少なくありません。
ところが、たとえ働かずに育児に専念していても、誰かに「依存している」と言われてしまう時代です。どちらにしても、責められてしまうのです。
「誰もが17時退社するのが当たり前」の働き方ではなく、男性も女性も働くことを期待される。その状況では、子どもを誰かに預けないといけない場面が必ず出てきます。
また実際に、働くことと育児の両立において、事前の知識や情報も不足しており、それは地域のサービスへの認知度の低さにも繋がっています。
今回の事件の親御さんは、2泊の夜勤を余儀なくされたという情報が正しかった場合、行政で行っている「ショートステイ」が利用可能でした。 もちろん枠が少ない(私の住む新宿区では、1施設のみが受け入れ可能。)ということもありますが、そもそもこのようなサービスがあることを知らないという人が多く居ます。
新宿区が行った子育てサポートの認知度調査では【67.7%】がショートステイの存在を知らなかったと答えており、その半数の【27.2%】が利用したいと思っている反面、利用したことがある人はわずか【1%】しかいませんでした。他の地域でも大きな差はないと考えます。
ある自治体職員で妊娠中の友人さえも、子育てについてどこに相談に行けば良いか、保育園の空き状況はどこで知るのかなど、全く知りませんでした。
「子どもができたら自動的に親になる訳ではない」
この現実に立ち戻って、親になる前の教育を早期に行い、子育て前の人に伝わる情報発信をする必要があると考えます。
●子どもを預けても、子ども自身が「うれしい」サポートのあり方
また子どもを預けても、子ども自身が「うれしい」と感じられる状態にできることも知ってもらいたいと思います。
企業の管理職のあるお母さんは、当社のインターンを受け入れてくださる前、「100人程に子どもを預けてきたけれども、いつも『ママはいつ居なくなるの?』と子どもに泣かれていた」といいます。ところが、当社のインターンがお子さんと遊ぶようになってからは、「ママ、お姉ちゃんは次いつ来るの?」と、子どもの反応がガラッと変わったそうです。
その方は以前、職場で求められる存在にもかかわらず、子どもに対する罪悪感がぬぐえず、何度も仕事を辞めようかと悩んでいました。ところが、子どもが喜ぶ反応を見て、初めて罪悪感から解放されたと、驚きと感動が混じった笑顔でお話してくださいました。
多くの方が子どもに対する罪悪感がクリアされると、仕事を頑張ることができます。実は、預かり問題がクリアされたら、キャリアが拓けるのです。
仕事だけを理由にして預けているのではなく、こどもの成長のために預けようと考える方も多く居ます。
子どもは、親だけでなく、色んな大人に愛されることで成長します。一人っ子の子どもも増え、家族以外の第三者の保育者の存在をとても大事に考えている方も多いのです。
当社のインターンでは、お兄ちゃん・お姉ちゃんと一緒に過ごすことで、人見知りが無くなったり、ごはんや着替えなど、自分でできることが増えたりと、こどもに大きな良い影響が生まれてきます。
また自分と同じように子どもを愛してくれる存在ができることで、少しリフレッシュの時間も取ることができ、こどもやパートナーに余裕を持って接することができるようになったと言う親御さんがとても多いのです。
●求められているのは、コミュニケーションの仕組み
今回の事件後に厚生労働省は、事業者が保険に入っているか、緊急連絡先、事前の面談、の3点について確認するよう呼びかけたかと思います。
大前提として、この3つは必要だと思いますが、どんなにいい預け先に出会えたとしても、依頼されたご家庭との間に、どこかで必ずミスコミュニケーションは生じるものです。子育てというのは、それくらい色んな価値観が入り交じっていると考えます。
そのため、預け先の拡充や保育者の資格の議論も必要ですが、それだけでは本質的な対策にはならないと感じています。
むしろ、「働く」と「子育て」を両立させるためには、子どもを預けることは大前提であって、そういう前提の中で、お子さん自身も保育者と過ごす時間を「うれしい」と感じてもらうための条件整備をしなければいけません。
保育者と家族のコミュニケーションを仲介する存在や、保育者自身をバックアップする仕組み、チェック体制を拡充する必要があります。そして、安全管理やトラブル対応等についての事前知識を学ぶこと、そして家庭と共有することがとても必要です。
例えば当社では、家庭のお父さんお母さんが、どのように子どもを育てていきたいと考えているかという想いを共有したり、家庭ごとの緊急時の避難場所なども共有するようにしていたり、日々の保育の報告を1,500字程にも渡ってお送りすることで、コミュニケーションの仕掛けを数多く実施して「家族のように見守る」ようにしています。
行政には、保育の資格だけではなく、むしろ、そのための支援をお願いしたいと思っています。親御さんは、ただでさえ、子育てについて教わったことがない方が多く、不安がつきまとい、孤立しがちです。そんな親御さんを支える仕組みとして、安心して預けられる保育環境をつくることが必要です。
このままの状態を放置し、インターネットのマッチングサイトで、ベビーシッターを頼んだお母さんが悪いという話をしていても、前述のように、親御さんたちはどの選択をしても責められてしまう現状では、ますます萎縮してしまいまうのではないでしょうか。
そうした負の空気感を子育て世代、これから親となっていく世代に広げるのではなく、
働くことも子育てをすることも両面からサポートし、「仕事も子育ても、とても楽しい!」と思える環境づくりをする事が、日本の活力にもなり、個人の幸せにも繋がっていくと考えます。
※今後の提言は、次のブログ「家族のように見守る保育サポートのガイドラインの必要性」にて書かせていただきます。