コラム

「ジェンダーイクオリティ」の実現に向けて

公開日:2023.08.15更新日:2023.08.25sourire staff

皆さんは「ジェンダーイクオリティ(Gender Equality)」という言葉をご存知ですか?これまで耳にしたことがないという方も、この言葉が男女格差の是正・解消を目指すものだということは何となくイメージできるのではないでしょうか?「ジェンダーイクオリティ」の具体的な内容についてお伝えする前に、まず私たちにとって既に身近な言葉となっている「ジェンダー」という言葉の定義について再確認してみたいと思います。

「ジェンダー」とは

ジェンダー(Gender)とは、生物学的な性別(Sex)に対して、社会的・文化的につくられる性別を指します。「男性はこうあるべき」「女性はこうするべき」といった、社会の中で作られたイメージや役割分担は「ジェンダー」です。よく耳にするものを例として挙げると、「男性の方が数字に強い」、「女性の方が家事に向いている」、「女性は感情的」など。こうした偏見や先入観が社会における活動内容、資金・資源へのアクセス、意思決定の機会において、男女間の不平等を生んでしまいます。

 

「ジェンダーイクオリティ」の流れ

「ジェンダーイクオリティ」はそうした不平等を是正するための動きやコンセプトを表し、性別に関わらず、一人ひとりが平等に責任・権利・機会を分かちあい、あらゆる物事を一緒に決めていけるような社会を目指しています。

「ジェンダーイクオリティ」が世界的に注目されるようになったのは、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)で「ジェンダー平等」が取り上げられたことがきっかけです。SDGsでは5番目に「ジェンダー平等を実現しよう」という目標を掲げ、9個の具体的なターゲットによって女性や女児への差別や暴力をなくし、女性がのびのびと能力を発揮できる社会を目指しています。また「持続可能な開発のための2030アジェンダ」においても、「ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントは、すべての目標とターゲットの進展に極めて重要な貢献をするものである」と述べられ、国際社会において「ジェンダー平等」の重要性が改めて認識されました。

こうした動きを受けて、日本でも2016年に「SDGs推進本部」を設置し、毎年「SDGsアクションプラン」を発表しています。また同じ年の4月には「女性活躍推進法」も施行。2020年には「第5次男女共同参画基本計画」を閣議決定し、昨年は「女性活躍推進法」と「育児・介護休業法」という2つの大きな法改正も行われました。「女性活躍推進法」では対象企業の拡大、「育児・介護休業法」では出生時育児休業(産後パパ育休)を創設するなど、政府を中心とした「ジェンダーイクオリティ」を実現する取り組みが継続的に進められています。

 

日本の現状と課題

ではこうした取組みによって、日本では順調に「ジェンダーイクオリティ」が実現されているのでしょうか?ご存知の方も多いかも知れませんが、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が公表した“The Global Gender Gap Report 2023”において、日本の総合スコアは0.647、順位は146か国中125位(前回は146か国中116位)でした。前回に比べてスコア・順位ともに落とし、先進国の中では最低レベルです。

企業においても、「ジェンダーイクオリティ」の実現にはまだ課題が多い状況です。男女賃金格差、女性の管理職登用、育休取得率という3点について現状を確認してみましょう。

まずは男女賃金格差について。これまでの取組みにより長期的にみると縮小傾向にありますが、2021年時点で男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性一般労働者の給与水準は75.2。そして国際的にみるとOECDの平均を下回り、諸外国と比べると格差はまだ大きい状況であると言わざるを得ません。

女性の管理職登用については、上場企業の女性の役員数がここ10年間で5.8倍に増加したものの、全体の役員数に占める女性の割合は9.1%にとどまっています。また2021年時点において、「役員」が21.4%であるのに対し「部長相当職」は7.8%と、役職によって大きな差があることも分かります。

育休取得率については2021年時点のデータを見てみると、女性が85.1%であるのに対し、男性は13.97%。復職者の育児休業取得期間については、女性は「12か月~18か月未満」が34.0%と最も高く、「10か月~12か月未満」が30.0%、「18か月~24か月未満」11.1%の順。一方男性は「5日~2週間未満」が26.5%と最も高く、次いで「5日未満」が25.0%、「1か月~3か月未満」が24.5%。男性の育児休業取得期間は2週間未満が5割を超えていることからも、乳幼児期の育児は未だ女性が主体であり、負担が大きい状況が伺えます。

 

「ジェンダーイクオリティ」がもたらすメリット

このようにまだまだ課題は多い状況ですが、「ジェンダーイクオリティ」の実現は決して女性だけのために行うものではありません。実現すれば企業全体にとっても大きなメリットがあります。今回は①イノベーション推進、②外的評価向上、③職場環境改善という3つのメリットについてお伝えしたいと思います。

  • イノベーション推進

ここでは「プロダクト・イノベーション」と「プロセス・イノベーション」という2つのイノベーションについて考えてみたいと思います。「プロダクトイノベーション」は製品・サービスを新たに開発したり改良を加えること、「プロセス・イノベーション」は製品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり改良を加えたりすることを意味します。例えば、これまで男性中心だった会議に女性が参画することで新たな視点が加わり、他社にはない新しい商品開発につながる。短時間勤務で働く女性が、時間内で効率的に業務を完了させるため作業工程の見直しを行い、ムリ・ムダ・ムラの削減につながる。「ジェンダーイクオリティ」の実現はプロセスとプロダクト両面におけるイノベーションに繋がると考えられます。

こうしたイノベーションは企業全体のパフォーマンス向上も導きます。実際“Credit Suisse”という金融機関が実施した調査では、女性の管理職比率が高い企業ほどEBITDAにおいて高いパフォーマンスを上げているという結果も示されています。

出典:“The Credit Suisse Gender 3000 in 2021: Broadening the diversity discussion” / The Credit Suisse.

  • 外的評価向上

日本では「えるぼし認定」や「なでしこ銘柄」といった制度によって、女性活躍推進に取組む優良企業を社会に幅広く紹介しています。「えるぼし認定」には5つの評価項目があり、基準を満たしている項目数に応じて企業の女性活躍推進を厚生労働省主体が認定する制度。一方「なでしこ銘柄」は経済産業省と東京証券取引所が合同で選定を行い、女性活躍推進に優れた上場企業を投資家にとって魅力ある銘柄として紹介する制度です。「ジェンダーイクオリティ」の実現に取組み、こうした制度で認定を受けることができれば企業の認知度やイメージも向上し、優秀な人材確保に繋がります。

また近年注目を浴びるようになっている「ESG投資」の面からも「ジェンダーイクオリティ」への取組みは欠かすことができません。“ESG”は“Environment(環境)”“Social(社会)”“Governance(ガバナンス)”の単語の頭文字をつなげたものですが、“Social”にはダイバーシティの推進、働き方改善といった項目も含まれています。企業がESGを無視した経営を続けていけば、投資対象として選んでもらうことができなくなり、今後の資金調達が難しくなる可能性さえあります。そうしたリスクを回避する意味でも「ジェンダーイクオリティ」への取組みは重要です。

  • 職場環境改善

子育て中の女性でも働きやすいようテレワークやフレックスタイムが導入されれば、男性にとっても仕事と育児の両立がしやすい環境が整います。また、女性が本来の能力を発揮することができれば、チーム内の作業分担を見直し、男性に偏っていた業務負担を軽減することも可能となるでしょう。「ジェンダーイクオリティ」の実現は、男性にとっても大きなメリットがあります。

ここで興味深い研究結果をご紹介したいと思います。下のグラフはピースマインド株式会社と九州大学 馬奈木教授が共同で行った研究結果。このグラフからは女性管理職の比率が上がると、従業員のストレス度、ワークエンゲイジメント、仕事満足度、職場の一体感が良好になる傾向を読み取ることができます。

出典:「【調査分析】女性管理職比率の向上が従業員のウェルビーイングにポジティブな影響」(ピースマインド株式会社)(https://www.peacemind.co.jp/workingbetter-info/25#63d8c390ff0a650cde6426b6-1674808851371l

 

またこちらのグラフからは女性管理職比率の上昇により、人事評価に関する説明や成長の機会、キャリア形成などの項目が改善し、職場に対してポジティブな影響を与えていることが分かります。

これらの結果から、女性管理職比率の上昇は従業員全体のウェルビーイング向上に繋がると考えることができるのです。

出典:「【調査分析】女性管理職比率の向上が従業員のウェルビーイングにポジティブな影響」(ピースマインド株式会社)(https://www.peacemind.co.jp/workingbetter-info/25#63d8c390ff0a650cde6426b6-1674808851371l

 

「ジェンダーイクオリティ」への取組み

日本では既に多くの企業が「ジェンダーイクオリティ」の必要性と重要性を認め、様々な取組みを進めています。そこで今回は他社に先駆けて「ジェンダーイクオリティ」への取組みを進め、成果を挙げている3つの企業をご紹介したいと思います。

  • ANAホールディングス株式会社

航空機整備、商社など、様々な事業会社をもつANAホールディングス。2020年から各社にダイバーシティ&インクルージョンの担当者を70名配置し、各職場においてD&I推進に取組んでいます。年に数回は担当者が集まる会議を開催し、情報共有とディスカッション、各社の取組み事例を共有。良い事例を各社が持ち帰って自社の施策に反映し、グループ全体のD&I推進に繋げています。

そんなANAホールディングスでは2021年に女性管理職比率の中期目標を策定。「2020年代の可能な限り早期に女性役員・女性管理職比率を30%以上にする」という目標達成に向け、様々なセミナーや研修を実施しています。例えば「仕事と育児の両立支援セミナー」は、育児休職中の社員だけでなく家族も参加可能とし、既に復職して仕事と育児を両立している社員の経験談を聞くことができる場を設けています。

またANAホールディングスでは多様な働き方の実現に向けて、勤務制度や休暇の拡充にも力を注いでいます。2017年にテレワークを導入しただけでなく、2021年からは休暇滞在先でのリモートワークも認めるワーケーション制度も採用。特定不妊治療を受けている社員に1ヶ月から最大1年間の休職を認める不妊治療休職制度や元社員の再入社を受け入れるカムバック制度など、社員が家族との生活や人生を充実させながら仕事に取り組み、多様な人財が個々の強みを最大限発揮できる体制を整えています。

  • 清水建設株式会社

「男性中心」のイメージが強い建設業界。そんな中清水建設株式会社は早い段階から「会社の持続的な成長にはダイバーシティ推進が必要不可欠」との認識を持ち、D&I推進に取組んできました。具体的には「女性活躍推進フォーラム」、「キャリアと育児の両立支援セミナー」、「ランチミーティングキャラバン」などを開催し、女性従業員のキャリア形成に対する意識醸成やネットワーク形成の機会を創出。「ランチミーティングキャラバン」は育児休職中の社員も対象とし、参加者からは「自分は会社員で社会とつながっているのだと感じることができた。」との感想も寄せられたそうです。

男性の育児休職取得推進にも力を入れ、昨年施行された「産後パパ育休」に関しては、清水建設独自の「パタニティ休業制度」として1年前倒しで導入。全社員向けに男性の育児休職取得を推進するeラーニングも公開しています。

「ジェンダーイクオリティ」への取組みはソフト面だけでなく、ユニフォームやヘルメットを女性にとっても使いやすいものに改良するなど、ハード面での配慮も怠りません。2019年にはにオールジェンダートイレも設置し、性別を問わず「誰もが働きやすい職場環境づくり」を目指しています。

  • 株式会社メルカリ

2022年12月日本企業として初めて“EDGE Assess”の認証を取得した株式会社メルカリ。“EDGE(Economic Dividends for Gender Equality)”とはスイス・ジュネーブに本拠地を置く、EDGE Certified Foundationによって制定されたジェンダー平等に関するグローバルな査定方法論と認証基準です。2013年の創業当初から時代をリードするベンチャー企業として注目を浴びていたメルカリですが、2016年に人事制度“mercibox(メルシーボックス)”の導入を発表したことで更に世間の話題を呼びました。“mercibox”では社員の産休・育休を支援するため、女性は産前10週+産後約6ヶ月間の給与を100%保障、男性は産後8週の給与を100%保障。その他にも不妊治療の費用を会社が一部負担する妊活支援、認可保育園に入園できず認可外保育園に入園する場合は差額を会社が負担する制度認可外保育園補助など、現在に至っても他社ではまだ実現できない手厚いサポート内容です。

メルカリでは“新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”というミッションのもと、“Go Bold”、“All For One”、“Be Professional”という3つのバリューを掲げています。中でも特に大切にしているのは“Go Bold ― 大胆にやろう”。“mercibox”導入には「社員が男女関係なく、思い切り働ける環境を作りたい」という思いがあったそう。充実した制度によって支えられた社員が安心して仕事に打ち込み、能力を発揮する。それがメルカリの成長し続けることができる原動力の1つとなっています。

 

終わりに

今回のコラムでは「ジェンダーイクオリティ」についてお伝えしました。「ジェンダーイクオリティは会社全体、社会全体のために実現するもの。」「自分もできることから始めてみよう。」このコラムが読者の皆さんにとって、そんな風に考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

参照URL:

株式会社コーナー. 「パラれる 『ジェンダーイクオリティ』実現のために人事が知っておくべきこと」.https://www.corner-inc.co.jp/media/c0204/, (参照 2023-06-15)
株式会社カオナビ. 「kaonavi人事用語集 ジェンダーエクイティとは? メリット、取り組み方、ポイント、事例」https://www.kaonavi.jp/dictionary/gender-equity/, (参照 2023-06-15)

ベネッセ教育総合研究所.「みつかる、明日のまなび。 SDG目標ジェンダー平等とは?男女差別をなくしていこう」. https://benesse.jp/sdgs/article7.html, (参照 2023-06-15)
男女共同参画推進連携会議(事務局:内閣府男女共同参画局)「みんなで目指す!SDGs×ジェンダー平等」. https://www.gender.go.jp/public/subtextbooks/pdf/subtextbooks.pdf, (参照 2023-06-15)
東京書籍株式会社.「EduTown SDGsわたしたちがつくる未来 SDGsの目標:5ジェンダー平等を実現しよう」.https://sdgs.edutown.jp/info/goals/goals-5.html, (参照 2023-06-15)
男女共同参画局.「男女共同参画に関するデータ集」.https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/database.html, (参照 2023-06-15)
厚生労働省.「令和3年度雇用均等基本調査」. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html, (参照 2023-06-15)
経済産業省.「【改訂版】ダイバーシティ経営診断シートの手引き多様な個を活かす経営へ〜ダイバーシティ経営への第一歩〜」. https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/turutebiki.pdf, (参照 2023-06-15)
株式会社朝日新聞社.「The Asahi Shimbun SDGs ACTION D&I(ダイバーシティー&インクルージョン)とは 意味や推進事例を紹介」. https://www.asahi.com/sdgs/article/14680034#h17sl623x45cf2p0qivltc1lyw2r90, (参照 2023-06-15)
株式会社システムインテグレータ.「IDEA GARDEN プロダクトイノベーションとは?事例や実践手法について解説」. https://products.sint.co.jp/ideagarden/blog/product_innovation, (参照 2023-06-15)
株式会社システムインテグレータ.「IDEA GARDEN プロセスイノベーションとは?意味や効果、事例を解説」. https://products.sint.co.jp/ideagarden/blog/process_innovation, (参照 2023-06-15) CREDIT SUISSE.「Economy in motion. Research publications.」.https://www.credit-suisse.com/about-us/en/reports-research/studies-publications.html, (参照 2023-06-15)
厚生労働省.「女性活躍推進企業認定『えるぼし・プラチナえるぼし認定』」. https://shokuba.mhlw.go.jp/published/special_02.htm, (参照 2023-06-15)
経済産業省.「女性活躍に優れた上場企業を選定『なでしこ銘柄』」. https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/nadeshiko.html, (参照 2023-06-15)
株式会社三菱UFJ銀行.「投資の新トレンド『ESG投資』とは?環境や社会に配慮する企業が成長する」. https://www.bk.mufg.jp/column/events/newlife/0026.html, (参照 2023-06-15)
ピースマインド株式会社.「PEACEMIND データで読み解く|女性活躍推進と職場のウェルビーイングの関係を解説!」. https://www.peacemind.co.jp/workingbetter-info/25#63d8c390ff0a650cde6426b6-1674808851371, (参照 2023-06-15)
Global Compact Network Japan.「日本企業の取り組み」.https://www.ungcjn.org/objective/gender/actions.html, (参照 2023-06-15)
ANA HOLDINGS INC.「ANA Group企業情報 サステナビリティ」. https://www.ana.co.jp/group/csr/, (参照 2023-06-15)
清水建設.「清水建設企業情報 ダイバーシティ推進」. https://www.shimz.co.jp/company/about/diversity/, (参照 2023-06-15)
株式会社メルカリ.「mercari careers Diversity & Inclusion」. https://careers.mercari.com/jp/diversity/, (参照 2023-06-15)
jinjer株式会社.「HR NOTE サイバーやメルカリも!女性躍進の最前線|働く女性を支える社内制度10選」.https://hrnote.jp/contents/a-contents-composition-shanaiseido-171206/, (参照 2023-06-15)
株式会社 プレジデント社.「PRESIDENT WOMAN なぜメルカリは、全力で「ダイバーシティ」を推進したのか?」.https://hrnote.jp/contents/a-contents-composition-shanaiseido-171206/, (参照 2023-06-15)


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