クラウディア・ディル・ゴールディン氏の「ジェンダー格差研究」が2023年ノーベル経済学賞を受賞しました。そこで、スリールでは、経済学者・マーケットデザインのご専門でいらっしゃる、大阪大学大学院 経済学研究科 安田 洋祐教授をスピーカーにお迎えし、ゴールディン氏の功績、そして安田教授ご自身の研究内容とも絡めながら組織改革・DE&I推進のヒントを解説いただきました。
ゴールディン氏のノーベル経済学賞受賞
ゴールディン氏の受賞に関し、選考委員会は「彼女の研究は労働市場における女性の成果について、私たちの理解を前進させた」と評価しています。
ゴールディン氏は現在ハーバード大学の教授を務め、終身在職権を獲得した初めての女性研究者。経済史と労働・実証経済学という2つの分野で大きな業績を残したことが単独受賞に繋がったと考えられています。
今回ゴールディン氏がノーベル経済学賞を受賞したことで、今後はこの分野における研究者が増加し、ビジネスや実務に結びつく研究も活性化することが予想されます。ゴールディン氏は自身の研究だけでなく、ノーベル経済学賞受賞によっても大きな功績を残したと言えるでしょう。
日本が世界から遅れを取っている分野とは?
ゴールディン氏の研究テーマにもなっている“ジェンダーギャップ”。日本での現状について触れると、2023年における国際ジェンダーギャップ指数は146カ国中125位。経済と政治参加分野でのギャップは世界平均以下だったという結果は、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか?
実はこのように日本が世界に対して大きく遅れを取っている分野は、ジェンダーだけではありません。スイスのビジネススクールIMDが2022年に発表した「世界デジタル競争カランキング」において、日本の総合ランキングは63カ国中29位。「ビッグデータの活用と分析」「企業の機敏性」「国際経験」という項目に関しては63カ国中63位という結果に。なぜ日本はデジタル化に関して、世界から大きく遅れを取ってしまっているのでしょうか?背景として考えられる要素を3つ挙げてみたいと思います。
- 経営層の知識不足
- 社員からの新しい提案に対してマネジメント層が消極的
- 新しいものや新しいことを取り入れにくい職場環境・組織風土
この3つは日本でDE&I推進が遅れている背景に通じるものがあります。そして特に着目すべきは3つ目の要素についてです。
“ブラック均衡”とは?
安田教授は、自分だけが違う行動を取ると悪目立ちや損をしてしまうことから、現状に満足していなかったり、現状が良くない状態だと認識していながら、周りへの同調行動を取ってしまうことを“ブラック均衡”とネーミングしています。
育休の取得有無を例に考えてみましょう。社員が必要に応じて育休を取得することができ、組織や企業も積極的に取得を推進している状態を“ホワイト均衡”と名づけます。“ホワイト均衡”は社員それぞれの満足度と職場全体としての満足度合計値が最も高くなり、“あるべき姿”“理想とする姿”です。しかし誰も育休を取得していない状況で、ある社員1人が育休を取得したとすると、「職場に迷惑をかけてしまう」「人事評価に影響する」などの不安から、その社員の満足度がマイナスに、連動して職場全体としての満足度合計値もマイナスになってしまう可能性があります。
こうした事態を避けるため、望ましくない状況ではあるものの“マイナス”が発生しない均衡状態を選択してしまう、それが“ブラック均衡”です。職場において“ブラック均衡”が発生してしまうと、社員が行動を起こすことができなくなり、組織改革も進みません。
“ブラック均衡”から抜け出すためには?
それでは職場や企業が“ブラック均衡”を解消するにはどうすれば良いのでしょうか?考えられる対応策は2つあります。
1.“空気を読まない”人材の採用
例えば柔軟な働き方や休暇取得に対して抵抗感が少ない、外国人や帰国子女の採用を積極的に行うという方法が考えられます。これまでとは違う人財を採用することで職場や企業の多様化に繋がり、“均衡”を気にかけていた社員の変化も期待することができます。
2.上司や経営陣のコミットメント
千葉市では職員に子どもが産まれた際、「育休を取得しない場合」に理由を提出させるという取り組みを実施。この取り組みによって職場における“標準”を「育休取得」に変化させ、また市全体として育休取得推進に取り組んでいくというメッセージを発信することができました。社員が“ブラック均衡”から抜け出す行動を後押しするためには、上司や経営陣からの後押し、そして組織や企業が本気であるという強いメッセージが欠かせません。
社会全体で課題に取り組む重要性
“ブラック均衡”は職場や企業内だけではなく、社会全体としても起こり得る問題です。サステナビリティや女性活躍推進に取り組もうとする企業が、個別、かつ短期間でその課題を解決しようとすると、一時的に業績が落ち込んで市場シェアが減り、業界全体への影響力が小さくなってしまう可能性があります。各企業がそうした可能性を危惧して“新たな行動”を回避してしまうと、社会全体としての変化は望めません。
サステナビリティや女性活躍推進といった問題に取り組むにあたり、各企業の努力だけで対応するには限界があります。社会全体として、「業界全体でルールを設ける」「法律を整備する」などの大きな仕掛けが必要です。また長期的な視野で取り組んでいく必要があるということを多くの人が理解し、共有していくことも欠かせません。
DE&I推進のメリット
ESG投資が注目を浴び、コーポレートガバナンス・コード改訂、米国における上場企業への人的資本情報開示の義務化、日本でも人的資本可視化指針が策定されるなど、世界的に人的資本を重要視する動きが拡大している昨今。DE&Iが実現できていない企業は社会や株主から評価してもらえなくなる可能性もあり、対策や対応は必要不可欠です。しかし、DE&I推進は決して必要に迫られ取り組むものではなく、企業にとっても大きなメリットがあるもの。米国の調査では、女性役員の多い企業は経営指標が好成績というデータが得られています。この調査結果からは、女性役員の多い企業は公平性と連帯感が強い職場・組織風土が築かれていて、そのことが社員全体のウェルビーング向上に繋がり、結果として経営指標も好成績になっていると考えることができます。
とは言え実際DE&I推進に取り組もうとする際、「どこから手をつけて良いか分からない……」とお困りの企業や人事担当者の皆さまも多いはず。弊社ではDE&I推進に役立つ資料や擬似体験型ワークを取り入れた実践的な研修をご提供しております。ご興味のある方は、ぜひ以下までご連絡ください。
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