コラム

国際男性デー特別企画:男らしさがつらいよ~“マッチョイズム”とは何か?~

公開日:2023.11.10更新日:2023.11.15sourire staff

皆さんは近年“伝統的な男らしさ”に苦しむ男性が増えているということをご存じでしょうか? 

昨年11月18日、「国際男性デー」特別企画として、研究をする傍ら、経営者層や管理職層を対象としたコーチング・カウンセリングで、生の男性の葛藤や悩みと向き合ってきた筒井健太郎氏をお招きし、“伝統的な男らしさ=マッチョイズム”について、弊社代表・堀江との対談を開催しました。ここでは、筒井氏に語っていただいた“マッチョイズム”の課題、弊害、克服方法などをまとめています。

マッチョイズムとは何か?

“マッチョイズム”とは何か?

堀江:筒井さん、今日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいですか?

筒井:筒井 健太郎と申します。現在は民間のシンクタンクで研究員を努めながら、博士課程で経営学についても研究を行っています。

今回テーマとなった“マッチョイズム”ですが、私はこの言葉を「伝統的な男らしさの規範」というように解釈しています。私自身この“マッチョイズム”に苦しんできた当事者であるということも踏まえ、お話しができたらと考えています。どうぞよろしくお願いします。

堀江:ありがとうございます。それでは早速テーマに移りたいと思うのですが、“マッチョイズム”が「伝統的な男らしさの規範」というのは理解できるのですが、それがどうして男性を苦しめることに繋がってしまうのでしょうか?

筒井:“マッチョイズム”の特徴は、「競争志向が強い」、「競争で勝ち抜いて行かなければならない」という感覚にあります。そしてそれが「競争で勝つためには仕事を最優先しなければならない」、「他人に弱さを見せることは負けに繋がる」、「人より秀でていなければならない」といった思い込みを生んでしまうのです。そうした思い込みが男性を苦しめてしまうことに繋がっていると考えています。

堀江:“マッチョイズム”は男性特有のものなのでしょうか?それとも女性が捉われてしまう可能性もありますか?

筒井:あくまで「男らしさの規範」なので、男女問わず捉われてしまう可能性はあると思います。ただ、男性の方が幼少期からそうした社会的規範の下に育っているので、“マッチョイズム”に捉われてしまう可能性は高いと思います。

堀江:筒井さんはどうして“マッチョイズム”に興味を持つようになったのですか?

筒井:理由は2つあります。1つ目は私の親が“マッチョイズム”だったということ。私は長男ということもあり、子どもの頃から「男らしくあること」「家を継ぐこと」といった期待をかけられていました。父親は「男たるもの1番を取らなければならない」という意識が強く、私も自然とそれを受け継いでいったのではないかと思います。

そして2つ目は、社会に出た際、企業の中で“マッチョイズム”が強い規範として働いていると実感したこと。現在でも多くの企業において管理職・経営者の大半が40代・50代男性。そうした方たちの持っている“マッチョイズム”が企業の中でも強く影響を与えていると実感しました。

男性が抱える「生きづらさ」とは?

堀江:電通総研が実施した「男らしさに関する意識調査」(2021)では、多くの男性が「生きづらさ」を感じているという結果が出ていました。現在男性が感じている「生きづらさ」とはどのようなものなのでしょうか?

筒井:男性が「生きづらさ」を感じ始めたのは最近のことではなく、90年代に「メンズリブ運動」が始まった頃からだと認識しています。当時、“24時間365日働く”というサラリーマン志向からの脱却、男性開放運動といった動きも行われていました。

ただ現在は、こうした「生きづらさ」を手放していきたいと思ったとしても、様々な要因に阻害され更に「生きづらさ」を感じてしまう、という問題も起きています。

堀江:阻害している要因とは?

筒井:まず企業の話をすると、最近ではダイバーシティやESG経営が進み、男性も育休取得が推奨され、仕事と家庭のバランスを取ることが期待されるようになりました。ただ実際のところ、上司からは「もちろん仕事と家庭の両立も大切ではあるけれど、優秀なあなたにはもっと仕事にも力を注いで欲しい。」というメッセージも受け取っていて、ダブルバインドの状態になってしまっている。しかも周りにはロールモデルとして実際に両立して活躍しているという方も少ない。自分自身の性別役割意識を変えてニュートラルにしても、どう行動して良いか分からない。

それに加え、夫婦間の話もあります。多くの家庭では女性が主体として家事・育児を担当していると思います。そこで例えば男性が努力して30分家事・育児を手伝ったとしましょう。けれどそれではパートナーの要望を満たしたり、パートナーからの評価を得ることは難しいのではないでしょうか。また、女性目線で考えたとき、「家事・育児を手伝って欲しい」と思いつつ、やはりどこかで「男性には家計を支える存在であって欲しい」という思いもある。つまり家庭内でもダブルバインドの状態になってしまっているんですね。

こうして見てみると、今の男性は企業や家庭から受け取る“期待”のメッセージが錯綜していたり、矛盾していたりするので、かなり辛い状態にあるのではないかと思います。

堀江:つまり元々男性は、「一家の大黒柱でなければならない」「競争でトップに立たなければならない」という規範が存在していて、それを実現するだけでも大変な状況だった。それが更に最近では企業や家庭から子育てやプライベートの充実も課されるようになってきて、身体は1つしかないのに、求められることが多すぎて身動きが取れない状況になってしまっているということですね。

男性はなぜヘルプシーキングが難しいのか?

堀江:女性が仕事と家庭を両立させる上でも、大変だったり悩んだりすることはありますが、女性は家庭の部分で外部サポートを活用するなど、ヘルプシーキングに対するハードルはそこまで高くない状況にあります。一方男性は助けを求めることに対して抵抗感を感じてしまうのではないかと思うのですが、いかがですか?

筒井:それはあると思います。現在男性が直面している新たな「生きづらさ」の問題は、男女問わず直面する可能性があるもの。けれど、男性はやはり助けを求めに行けない、相談できないというのが大きく影響していると思いますね。

堀江:女性はどちらかと言うと、友人同士で情報共有したり、弱みを見せて慰め合ったりしながら頑張ると言うパターンが多い気がします。男性の友人関係は自己顕示欲の場と言うか、ライバル関係になってしまうパターンが多いのでしょうか?

筒井:そうですね、何に対しても競争意識を持ち込んでしまうのが“マッチョイズム”の怖さだと思っています。

最近“caring masculinity”という新しい概念が提唱され始めているのですが、これは「家族や自分のことをもっとケアしていこう」という男らしさです。ただ、その“caring masculinity”を実行できているのは誰なのかという調査をしてみると、結果は“マッチョイズム”な男性だったりする。つまり今まで競争を勝ち抜いてきた男性が家事や育児もこなしていて、「俺たちは社会からの期待にも応えていてすごいでしょ?」というアピールに繋がってしまう。

堀江:お話しを伺っていると、男性と女性の両立不安における圧倒的な違いは、男性の方がヘルプシーキングしづらいという点にあるのかなと感じました。女性は「全てを完璧にこなさなければ」という思いから、ヘルプシーキングできない場合があります。一方男性は、恥ずかしいという思いや、「助けを求めてしまっては負けだ」という思いが、ヘルプシーキングを阻害してしまっている可能性がありそうですね。

“マッチョイズム”から解放されるには?

堀江:自分が“マッチョイズム”に捉われていると気付くことができたとしても、そこから自分を解放するというのはとても大変なことだと思うのですが…。

筒井:そうですね。私自身、正直気付いてからの方が大変でした。“マッチョイズム”は自分を苦しめていた要因である一方、内面の脆弱な自分を見なくても良いようにカバーしてくれていた部分もあったので。つまり“マッチョイズム”という鎧を脱ぐことは、脆弱な自分と向き合い、脆弱な自分を世間に露出することになります。これは男性にとってかなり大変なことだとは思いますね。

堀江:筒井さんはどのように対処されたのですか?

筒井:私もまだ葛藤中ではありますが、少しずつ「自分が脆くて弱い存在だ」ということを認め、受け入れるようにしています。「競争志向」「上昇志向」の世界で生きていると、「勝たなければ行けない」「卓越していなければならない」という思いが強くなり、自分の欠点や弱さに目をつぶってしまいます。けれど「人は誰しも完璧ではない」ということを認めることはとても大切だと考えています。

堀江:“マッチョイズム”を克服する上で、他にもアドバイスはありますか?

筒井:フラットに、腹を割って話せる相談先を確保する事ですね。男性は自分が“マッチョイズム”に捉われているということに気付いても、それを言語化したり、誰かに相談して対話することがない。けれどそうした心の内を吐露することはとても大切です。そのためにも自分が安心して話すことができる相談先を確保しておくべきだと思います。

堀江:ちなみに「組織」としては“マッチョイズム”にどう向き合い、どう解放していけば良いのでしょうか?

筒井:組織長である管理職クラスの方々が“マッチョイズム”の葛藤と向き合っていただくことが必要ではないかと思います。現時点ではまだ多くの企業において管理職の大半が男性。そしてそうした方々が“マッチョイズム”に捉われていると、マネジメントしている組織の風土や規範に大きな影響を与えてしまいます。

では管理職の方々が変わっていくにはどうしたら良いのか。実はこの解決策も先ほどと同じで、管理職の方々もフラットに相談できる相手を見つけておくことが大切だと思っています。企業の中では職位が上がれば上がるほど、誰かとフラットに話しをする、他人に弱さを見せるというのは難しい状況。だからこそ組織の文脈や理論とはかけ離れた場所で、相談できる相手を確保しておくことが大切です。

具体的には企業がコーチと契約をし、コーチングの枠組みとして相談できる場を提供するという方法もあります。この方法であれば、守秘義務によって相談内容が漏れることもありませんので、管理職の方々も安心して自分の心の内を吐露することができるのではないでしょうか。

堀江:社会としては“マッチョイズム”にどう向き合っていけば良いのでしょうか?

筒井:今回は「国際男性デー」の特別企画となりますが、やはり「国際男性デー」は「国際女性デー」に比べて盛り上がりも低い。同様に、働き盛りの男性が抱えている問題はあまり認知されていないのだろうなと感じています。けれど、最近では男性が産後うつになってしまうというパターンも多く、育休世代や子育て世代の男性が抱えているモヤモヤや悩みを、もっと共有していく必要があります。そのためにも、当事者である男性自身にもっと積極的に声を上げて欲しいなと思っています。

堀江:ちなみに筒井さんご自身も産後うつを経験されたとのことですが、どうやって解消されたんですか?

筒井:そうですね、良い意味で今まで拘っていた“キャリアアップ”をあきらめました。攻めたキャリアを考えていた時には、「あと何年でこういう状態になっておかなければならない、何をしておかなければならない」という焦燥感や焦りがありました。けれど、人生は長い。もっと長い文脈でキャリアを創っていこうと思うことができるようになりました。

堀江: “自分らしく生きる”にはある種のあきらめが必要だというのは同感です。全てをあきらめないでどうにかしようとすると、やはりどこかで苦しくなってしまうので。過度な競争意識を手放し、長いスパンでキャリアを考え、自分の心内を吐露できる相談先を確保する。こうした心がけが“マッチョイズム”解放の鍵となりそうですね。筒井さん、貴重なお話しを有難うございました。

 

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