コラム

“国際女性デー”に考える、自分らしく生きる方法  〜ジェンダーギャップ指数を低迷させる3つの固定観念

昨年発表されたジェンダーギャップ指数で日本は121位(153カ国中)と過去最低順位、そして主要先進国の中でも最下位となりました。最も他国と差が開いた分野が、"政治"と"経済"です。これらの分野で差を生んだ原因は何なのでしょうか? 今回は「女性のキャリア」という視点からジェンダーギャップ指数を低迷させる理由について考えてみました。

公開日:2020.03.06更新日:2023.06.20staff

3月8日は国際女性デー。

皆さんは、国際女性デーをご存知ですか?起源は1904年3月8日。ニューヨークで婦人参政権を求めたデモを契機に、1910年の国際社会主義会議にて「女性の政治的自由と平等のために戦う日」と提唱したことから始まりました。イタリアでは、男性が母や妻に愛の象徴であるミモザを贈る日とされており、女性たちは家事や育児から解放され、束の間の自由を楽しんだりと、女性たちの勇気と決断を称える日として、世界各地で様々な働きかけが行われています。また、日本では「女性の生き方を考える日」として各地で様々なイベントが開催されています。

 

「女性の生き方」と聞くと、何をイメージするでしょうか?

結婚する・しない、出産する・しない等、様々な選択肢の中で常に起こるかも分からない先のことを想像し、決断をしていくタイミングが女性には多く訪れます。「生き方」と一言で言っても様々な意味合いを持ちますが、今回はスリールとしてお手伝いさせていただいている『女性のキャリア』に注目してみていきたいと思います。

 

2019年に発表されたジェンダーギャップ指数において日本は121位(153カ国中)、主要先進国の中では最下位となったことが話題となりました。他国と最も差がついているのは政治分野ですが、その次に差が大きかったのは経済分野(女性管理職の少なさ、収入の男女差等)でした。教育過程では大きな差もなく男女同じように過ごしてきたのにも関わらず、社会に出た途端ギャップが生じてしてしまうことがこの結果から見てとれます。出典日本BPW連合会

 

 

出産を機に仕事を離れる日本の女性

ご存知の方も多い”M字カーブ”。

これは女性の就業率が「結婚・出産によって一旦低下し、子育てが落ち着いた時期に再び上昇する」様子がMの字に似ている為につけられた名称です。

2019年度の総務省統計局の調査によると、10年前よりもM字カーブの落ち込みは和らいでおり、結婚・出産後も仕事を継続する(正規・非正規雇用含む)女性が増えていると言われています。一方で、男女の年齢別労働力を比較すると、男性にはない女性特有のものとして、M字カーブの谷間部分(35〜44歳)があることが分かります。つまり、M字カーブは穏やかになったとは言え、まだまだ男女の差として存在はしている、ということです。

では日本の女性の就業率は、出産前の時点から、他国に比べて低いのでしょうか?

内閣府男女共同参画局の調査によると日本の「女性の第一子出産前の有職率は72.2%」。国際労働機関の調査に挙がっている他の国々と比較しても、出産前の段階で就業率に差はありません。

 

 

しかしながら、日本の女性の場合、第一子出産後の就業継続率は「53.1%」と「-19.1%」と減少するのに対し、スウェーデンでは「-2.9%」、デンマークは「-0.6%」、ノルウェーに至っては「+1.3%」と上昇しています。唯一大幅に減少しているドイツ以外を見ても、イギリス「-14.5%」、アメリカ「-11.6%」と、日本の減少率は大きいことが分かります。こういった調査から、他国と比べても、日本の第一子出産後の就業継続率の減少が大きいという事が分かります。(同調査での日本のデータはなし)

国際的に見たらまだまだでも、年々日本女性の就業率は上がっていることは良い変化なのでは?と思う方も多いと思います。
しかしながら日本女性の就業率上昇の背景には、非正規雇用の増加が大きく影響しています。

下のグラフに示されている通り、女性は35歳以降非正規雇用の比率がぐんと上がっていることから、結婚・出産など何らかの理由で仕事を離れて、再び社会復帰する際には非正規雇用にとどまっていることが読み取れます。

つまり、管理職になるような年齢(35歳以降)に、正社員で就業を継続している人は限られているということです。このような背景があることで、「女性管理職30%」という国の目標が伸び悩んでいるのです。

 

企業に向けての提言

都心部では、産後も正規雇用のまま働き続けるケースも多くなってきましたが、時間短縮勤務などで収入や評価が下がってしまうことにより、昇格の機会を逃すことも多くあります。
『一度レールから外れると再び同じレールには戻りにくい』構造があると、女性だけではなく多様な状況の人がキャリアアップすることを阻んでしまうのです。

このような現状を打破する為に、スリールが企業に提唱しているのて以下の2点です。

1. ライフイベント前の早期育成
2. 時間制約に関係なく評価される仕組み

上のグラフは、どの年次のタイミングで昇格をさせる育成を行っていくかというイメージです。
もちろん、昇格のタイミングは各社によって様々ですし、年次に関係なく昇格を行っている企業も多くあります。そのため、このグラフはあくまで提言を分かりやすくしたイメージだと捉えてください。

1. ライフイベント前の早期育成
このグラフで示しているように、新卒採用を行っている多くの会社が20代後半でリーダー的ポジションへの育成をした後、30代にマネジメント的ポジションに向けての育成を行っていきます。このような育成計画の場合、産休・育休の時期(グラフでは「ライフイベント期」と記載)が、ちょうどマネジメント的ポジションに向けての育成の時期に被ってしまいます。その為、女性が育成対象や評価対象から外れていくという現象が起こってしまうのです。(現在は育休取得者の大半が女性ですが、今後男性育休が増えていくことを考えると、昇格対象者が男女共に少なくなってしまうのです。)
このような状況を避ける為に、育成計画を前倒しにしてライフイベント前から早期育成を行っていくことが重要です。ライフイベント前に一度マネジメントを経験していると、復帰をした後にキャリアの継続がしやすくなってくるのです。男女ともにライフイベント期にキャリアを一時的に休む可能性がある点や、そもそも労働力が減少していくことを考えると、早期育成の必要性は急務になります。

2. 時間制約に関係なく評価される仕組み
また状況として多く発生しているのが、産休・育休を経て復帰をすると等級が下がってしまっていたり、時間短縮勤務を取ることによって減給されたり昇格ができないようになってしまうというケースです。先述したように、もしライフイベント前に昇格していたとしても、時間制約があることで降格をしたり評価自体が下がってしまうことで、その後にキャリアアップができない制度になっていることが多くあります。

働き方を柔軟にし、すべての人が時間制約が無くなる環境を創っていくことだけではなく、時間制約や育児休暇の期間が評価にマイナスにならない制度・仕組み作りを行っていく必要があります。

 

ジェンダーギャップを解消していくために

出産を機に仕事を離れる女性が少なからず存在していることは前述した通りですが、他国と比べても日本の女性がこれほどまでに、出産を機に仕事を離れてしまうのはなぜなのでしょうか?

三菱UFJリサーチの調査では離職の原因として「自発的に退職」または「両立が難しかったため」という理由が50%を占めています。

また、スリールの調査では、出産を経験していない女性でも92.7%が仕事と子育ての両立に不安を感じており、実際に妊娠・出産を機に転職・退職を考える人は50%を超えることが分かりました。

様々な国の状況を見る中で、「3つの固定観念のどれかがあると『仕事と子育ての両立がしづらい』状況に陥る」と、弊社代表の堀江は提唱をしています。

3つの固定観念とは、「働き方」「子育て」「性別役割分担意識」です。

日本では、この3つの固定観念の全てが強いことにより、より他国よりも仕事か家庭のどちらかを選ばざるを得ない環境に陥っていると考えます。

では、3つの固定観念の現状や他国との比較、また企業や個人のレベルでできることを提言していきたいと思います。

 

日本を取り巻く3つの固定観念

1. 『働き方』への固定観念

2019年4月1日より働き方改革関連法が施行されたことにより、残業時間の是正や柔軟な働き方の推進として在宅ワークが可能となる企業も増えてきました。

しかしながら、総務省の通信利用動向調査(令和元年)によると、国内企業のテレワーク導入率は19.1%、実際に実施をしたことがある個人の割合は 8.5%とまだまだ低い割合です。国際比較をしてみると、アメリカのテレワーク導入企業率は2015年時点で85%と高く、イギリスも20%を超えていると言われています。

このことからも、まだまだ日本では『仕事はFace to Faceで進めるべき』、『会社にいることが重要』という考え方が多くあることが分かります。そうなると、子どもや親などの急な病気などで会社に行けないことが多い育児中、介護中の方が働き続けられることが困難になるのは明白です。まずは働き方に対しての固定観念を崩していくことが重要です。

解消方法案

・ 柔軟な働き方、そして”チーム”で仕事をしていく
現在はコロナウィルス対策の一環で学校がお休みになったことで急遽出社できなくなった方も多くいるかと思いますが、誰がどんなタイミングで抜けてもカバーしあえる”チーム”で仕事をしていくことは、制限のある人たちだけではなく、全員で見直したい働き方です。

・ 制約のある人たちの評価を下げないようにする
先ほどの企業の提言でも述べたように、出産や一時的に時間の制約ができる人たちをその後の昇進から排除するのではなく、限られた時間の中で出す成果を正当に評価する環境を作ることも大切です。

昨今のコロナウィルスやオリンピックなどで「出勤規制」を行う企業が増えていることが、このような意識の変化に影響していくことを願っています。

 

2. 『子育て』への固定観念

3歳になるまでは親の手元で子どもを育てた方が良いという『3歳児神話』。本当か嘘か分からないけれど、なんとなく信じてしまう情報は他にも沢山あります。

スリールでは、このような「仕事と子育ての両立」にまつわる神話を『両立神話』と題して2019年に調査を行いました。この結果からも、「3歳までは母親が子どもをみないと、発達に影響がある」という価値観が周りから言われて形成された、と答える方が多くいることが分かります。

このような固定観念があることからも、日本人は周りの手を借りることに引け目を感じる傾向にあると考えています。

シッターサービス企業の調査では、既にシッターサービスを利用している人、未だ利用したことのない人共に、約70%の人が「最初はシッターサービスに対し抵抗を感じていた」と回答しています。

また内閣府の調査でも、『子育てにあたって利用したい制度』として、「ベビーシッター、保育所(認可・認可外含む)」と回答する率が、他の調査対象国に比べ低いことからも、日本では子育てにおいて周りの手を借りることに引け目を感じる雰囲気があることが分かります。このように、子育てを自分で全部行おうとすると、仕事を行う余裕や時間もなくなってしまい、”仕事”か”子育て” どちらかを選択せざるを得ないことになってしまいます。

解消方法案

・ 子育てのチームを作る

子育ては個人戦ではなくチーム戦です。一人ではパンクしてしまうことも、それぞれの得意不得意、子どものために使える時間を補い合うことで、親はもちろん、子どもにもプラスの影響が期待できます。そのためのチームメンバーは、必ずしもベビーシッターや保育所ではないといけないわけではありません。”いま、既に頼っている人”という実績に囚われずに、子育てに関わってほしい人、頼りになる人など、チームメンバーになってくれそうな人に助けを求めてみてはどうでしょうか。

安心して任せられる環境を見つけること、預け先の人・サービスを信じて子どもを預けることへのハードルは、実際に預けてみて子どもが楽しんでいる様子を見ると解消していくことが多いです。まずは、周りの手を借りること、子どもを親以外の信頼できる大人にみてもらうことに罪悪感を感じる必要はない、ということを知ってほしいと思います。下記のように生涯発達心理学の領域でも、子どもが多くの大人に触れ合う重要性が語られています。

多くの安心できる大人に囲まれることで、「自分はいろんな人に愛されて育ってきた」「親以外の大人も自分を受け入れてくれた」という体験を多くすることができます。

このような経験が多いほど自己肯定感が高まり、新しいことにチャレンジしようとする精神も育つ

教育学博士の鈴木忠氏 『生涯発達心理学』より

 

 

3. 『性別(役割分担)』への固定観念

「仕事=男性(父親)」「家事育児=女性(母親)」という考えが多かれ少なかれ私たちの中に存在することは説明するまでもないかと思います。また、これは他の国々に比べても日本が強く持っている考え(固定観念)でもあります。内閣府の調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、欧州各国では「反対」派が5割を超えている一方で、日本では5割以上が「賛成」派でした。

また、育児分担の比率も、欧州ではいずれの調査国も「妻のみ(もしくはメイン)」で行う比率が5割に満たないのに対し、日本では6割強が「妻のみ(もしくはメイン)」で行うとしています。日本ではまだまだ「仕事=男性(父親)」「家事育児=女性(母親)」という考えが存在し、他の国々に比べても日本が強く持っている考え(固定観念)でもあります。


解消方法案

・ 「自分がどうしていきたいのか?」パートナーと話し合う
これは制度で解決するものではなく、個人個人がパートナーと話し合うしかありません。

もちろん、お互いが現状の役割分担を心地よく思い、よしとするのであれば問題ありませんが、話し合うこともなく、この「家事育児は女性の仕事」という固定観念の上で知らず知らずのうちに役割が分担されてしまってはいないでしょうか。

冒頭の部屋の写真も、誰もが女性の部屋だと想像するかもしれませんが、写真のどこにも性別に関する説明は書いてありません。ピンク、お花があるからきっと女性の部屋だ、というのも固定観念の一つです。そのくらい、固定観念というものは悪気なく私たちの中に根付いているものだということです。

あなたはどういう状態がハッピーなのか、3年後にはどうしていたいのか?など、固定観念で決めてしまうのではなく、一度じっくり自分自身と、そしてパートナーと話し合ってみてほしいと思います。3年後のVISIONを考える為のワークシートは、代表堀江の書籍にも掲載しています。是非パートナーでの話し合いに役立ててください。

 

固定観念(アンコンシャスバイアス)をなくしていく時代

先述した3つの固定観念は皆さんの中にもありましたでしょうか?

これらの固定観念があることで、「仕事は会社に行きながら、子育ては親が行い、女性が行う」という意識が固定し、女性にばかり多くの負荷が掛かってしまう状況になってしまってはいないでしょうか。

しかしながら、この1つでも柔軟になれば、やり方の選択肢はいくらでも広がります。

働き方がリモートでも可能になれば、柔軟に仕事と子育てが両立できる。

子育ての固定観念がなくなれば、多くの人と一緒に子育てをすることができる。

そして、性別役割分担がなくなれば、性別関係なく、自分がやりたいことにチャレンジができるようになるのです。

まずは個人個人が固定観念をなくし、それぞれの状況を容認していくことで、ジェンダーギャップ の解消、そして自由に自分らしく生きることが増えていくことを私たちは願っています。

 

ここ数年出生率が1.4人前半を推移し、想定より早いペースで少子化が進んでいることが報じられていますが、このまま人口減少が続くと2030年には644万人の労働力不足ともなる予想もあります。

また、ますます高齢化社会となる日本は、子育てだけでなく、介護などの理由で時間や条件が制限される中で働く人が増えてくる時代です。

男女共に結婚や出産などのライフイベントの前に今後どうしていくのか話しあう、既に子育てをしながら仕事をしている人ももう一度見直してみるなど、個人レベルでできることの具体的なヒントは弊社代表堀江の『自分らしい働き方・育て方が見つかる 新・ワーママ入門』に掲載されています。是非ご覧ください。

 

 

 

 

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