毎年出生数が前年比を下回り少子化が危惧される中、昨年厚生労働省が発表した「人口動態統計」では2019年の婚姻数が元年婚効果によって前年比 2.1%に増えたとの明るいニュースもありました。
一般的に、結婚や出産などのライフスタイルの変化がキャリアに及ぼす影響は男性よりも女性の方が大きいと言われています。ライフスタイルに変化を起こすきっかけとしては、パートナーの転勤もその一つでしょう。
ところで、皆さんは“駐妻”と聞くとどんなイメージを思い浮かぶでしょうか? 在留邦人数が135万1970人(2017年時点・永住者含む)と海外転勤が珍しくない現在、皆さんの周りにもそういう方がいらっしゃるかもしれません。
「パートナーの転勤で海外に住めて仕事もせずに自由な生活が送れる?」
「発展途上国などお手伝いさんのいる国では家事もせず時間を持て余す?」
「日本人コミュニティでの処世術が大変そう?」
……どれもある部分は真実で、ある部分は想像にはない大変さがあるのかもしれません。
その一つとして、ビザやパートナーの会社の規定、滞在国の言語の問題などで、それまでのキャリアを中断せざるを得ないことに思い悩む方も少なくありません。こういった悩みを抱える方が増えているということは、キャリアアップのための自己啓発を行なったり、働くことへの想いを再確認し合う駐妻コミュニティや、国を超えて“駐妻”という共通点で繋がりキャリアセミナーや相談会を開催するコミュニティがあることにも表れています。
もちろん中には駐在帯同期間を積極的に活用し、大学院に通ったり、資格を取得したりと有意義に過ごせる方もいます。しかし、子育てなど様々な理由からそうしたことには踏み出せず、積極的に活用しているスーパーウーマン(マン)と自分を比べ、ますます自信をなくしてしまう人もいます。
物理的に“会社で働き続ける”という選択ができなくなったら、あなただったらどうしますか? また、“環境を理由にせず、自分らしく働く”ことはどういうことなのでしょうか?
今回は、国際機関で働くパートナーが定期的に国を超えての転勤があるため、継続して同じ組織で働くことが厳しい中で、3人の子育てをしながらも英語コーチングという仕事で活躍されているかなこさんにインタビューをしました。
“自分にできること”を模索し続けたことが、転機につながった
スリール(以下、ーー)
本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
まずはじめに、かなこさんはどういった経緯で英語コーチングという仕事を選ばれたのでしょうか?
かなこさん(以下、K)
私は、パートナーの大学院留学、転勤のため、日本を離れて8年近くになります。
それまでは日本で残業も厭わず働いていたため、初めの4年間は働かないことで1つのアイデンティティーが失われたように感じ、妊娠出産の傍ら常に「働きたい」という悶々とした気持ちを抱えていました。
加えて、パートナーの同僚やママ友との会話にも言語の面で苦労し、それまでは得意だと思っていた英語や人とのコミュニケーションについても自信が持てず、その数年間は自分のキャリアにとってまさにブランクに感じていました。
滞在1ヵ国目のアメリカ(ボストン)では第一子を出産し、子どもが10ヶ月になる頃にネパールに転勤。滞在2ヵ国目のネパールでは、教育系NGOでのアドバイザリーや日本語教師としてボランティアをしていました。一方で、国際機関で働くパートナーと同様に、国際機関で契約社員として働くことも検討し、応募資格に必要な修士を取るために大学院に通うことも考えましたが、当時はまだオンライン受講がメジャーではなかったため諦めました。
その後、再びアメリカ(ニューヨーク)に戻り、本格的に大学院を検討しましたが、当時まだ小さかった子どもの性格的にも、物価の高いニューヨークで子どもを預けられる環境を準備することは難しかったため断念。第二子を出産し、「働きたい」ことは頭の片隅に常にあったものの、まずは2人の子育てに集中した時間でした。
また、企業で長く働くことは転勤の続くパートナーの仕事柄難しいので、個人で仕事をすることを考え始めたのもこの頃でした。
転機が訪れたのはタイ(バンコク)に転勤となってからでした。
第三子を出産し子育ても忙しい時期ではありましたが、上の2人が学校に通いだし、家のことはお手伝いさんにも頼れる環境となり、「ここで動けなかったらこれから先ずっと動けない」と自分を奮い立たせ、今の自分に何ができるのか?、を考え、洗い出しました。そんな矢先、子どもの幼稚園のママ友から他のママ友との英語でのコミュニケーションについて相談を受ける機会がありました。このことがきっかけで、これまでの海外生活で一番苦労し、努力してきた「英語」や苦労した経験が誰かの役に立つことに気付かされたのです。
また、ネパールで日本語教師をした経験から「教えること」が好きだという自覚があったため、以前から名前だけは知っていた「英語コーチング」を自分でやってみようと決心がつきました。
「英語コーチングをしよう」と決めてから実際に仕事を始めるまでの半年間は、これまで数年間抱えていたモヤモヤを爆発させるように動きました。
ーー具体的にはどんなことから始められたのでしょうか?
(K)まずは、英語コーチングとはどんなものなのか?、実際に自分で受講を受けて勉強を始めました。次に、個人で働くとはどんなものなのか?、バンコク在住の起業家のアシスタントを自ら申し出て経験を積みました。その起業家の方から一緒に英語のセミナーをやってみないかと誘っていただき、そこで最初のクライアントとなる方達との出会いも生まれました。
次の転勤先によってはインフラが満足ではない可能性もあり、働くこと事態難しいかもしれない、という状況も相まってとにかく必死でした。また、そうして自ら求めて動いているとチャンスが巡ってくるものだと感じていました。
ーー“英語コーチング”に決められたきっかけは幼稚園のママ友からの相談がきっかけでしたが、それまで働けずにモヤモヤとしていた期間も日本語教師やNGOボランティアなど、その時その時にできることで模索し続けた経験が、個人で仕事を始める自信を与えてくれたのですね。
未来のことはわからない。だから今を楽しむ
ーーこれまで複数の国に滞在されてきた中で、日本とは違う価値観にたくさん触れてこられたかと思います。その中で今も大事にされている価値観があれば教えてください。
(K)ニューヨークにいる時、日本人同士では「日本に帰った後は何をする?」という会話をよくしていました。
ある日、イスラエル人に同じ質問をした時に、「将来なんて分かるわけないじゃない。それが人生で、だから楽しいんじゃない!」と返されたことを今でも覚えています。
私たちはどうしても自身の年齢を考えて今後のキャリアについてできるだけ計画的に進めようとしますが、先のことを考えて悶々とするくらいなら考えずに今を楽しもう!と思えるようになりました。考えて悶々とするくらいなら考えずに今を楽しもう!と思えるようになりました。
ーーまさに、2019年末からのコロナ禍で将来については不確定要素が多いことを多くの人が実感しました。かなこさんは仕事を続けられるために今でも努力していることはありますか?
(K)仕事を続けるためというよりも、今後もずっと海外に住み続ける可能性が高いので、自分のために英語の勉強は続けています。
今の仕事に固執しているわけではなく、次の転勤先がビザも問題なく働ける国であれば会社員を選ぶこともあるかもしれないし、治安の悪い国であれば生活優先になるかもしれない、そこも将来のことなので分かりません。
仕事を続けるために意識していることは、まだ子どもたちも小さいので、子育てに影響が出ない範囲でクライアント様の人数を制限していることです。その上でパートナーやお手伝いさんなど、周りの人の協力を得ています。
ーー最後に、かなこさんにとって「仕事」とはどんな存在なのでしょうか?
(K)人生を豊かにしてくれるものだと思います。
特に英語コーチングという仕事は、もしお金がもらえないと言われても続けると思います。それだけ好きなことができているのかもしれません。
ーーありがとうございました。
環境を理由にせず、自分らしく働く道を見つけたかなこさん。
かなこさんの話しを伺っていると、キャリアとはまさに点と点が線になってできるものなのだと感じました。
キャリア研究の世界的権威でありミネソタ大学名誉教授のハンセン博士は、キャリアを一本道で続いていく線状のイメージではなく、ランダムに並べられた様々な色柄の模様「パッチワーク」のイメージで捉えなさい
と提唱されています。
※ 詳しくは弊社代表堀江著『自分らしい働き方・育て方が見つかる 新・ワーママ入門』をご覧ください
一つ一つの経験は思い描いているものからかけ離れていて全然関係のないものに見えたとしても、後から思い返した時にその中の何かがきっかけとなっていたり、根本の部分で繋がっていることがあるのかもしれません。
スリールでは、個々人が「自分らしいワーク&ライフ」を実現し、笑顔で働く人が増える社会の実現を目指しています。
また、「子育てをしながらキャリアアップできる人材と組織の育成」をテーマに、講義や擬似体験型ワークを取り入れた実践的な研修を提供しております。
ご興味がある方はぜひこちらよりお問い合わせください。
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