コラム

“はたらく幸せ実感”が高いインドネシア、その裏側にあるものとは?

公開日:2023.07.13更新日:2023.07.28sourire staff

インドネシア・ジャカルタ「ファタヒラ広場」

2022年にパーソル総合研究所が実施した「グローバル就業実態・成長意識調査 -はたらくWell-beingの国際比較」調査において、インドに次ぎ“はたらく幸せ実感”が高かったインドネシア。バリ島などを始めとするリゾート地としては有名ですが、インドネシアに対して“働く”“仕事”といったイメージはあまり湧かず、就業状況についてはご存知ないという方も多いのではないかと思います。この記事では、まずインドネシアの就業状況についてお伝えし、“はたらく幸せ実感”がなぜ高いのか、紐解いていきたいと思います。

就業状況

インドネシアの総人口はASEAN10カ国の中で最も多く、2022年6月時点で2億7,577 万人。15歳から64歳までの生産年齢人口の推移を見ると2030 年にむけてピークが持続する見込みで、引き続き若い人口が労働市場に供給される状況にあります。※1

図1
“World Population Prospects 2022 Summary of Results“ / United Nations Department of Economic and Social Affairs Population Division

※1 出典:“World Population Prospects 2022 Summary of Results“ / United Nations Department of Economic and Social Affairs Population Division

日本とインドネシアの就業状況を比較してみると2023年における日本の失業率は2.56%であるのに対し、インドネシアは5.86%。2021年12月時点における日本の平均年収が約433万円であるのに対し、2022年2月時点におけるインドネシアの平均年収は約34万円となっています。※2

※2 出典:“WORD ECONOMIC OUTLOOK A ROCKY RECOVERY APRIL 2023” / INTERNATIONAL MONETARY FUND“Average of Net Wage/Salary (Rupiahs), 2022-2023” / BPS – Statistics Indonesia “令和2年分 民間給与実態統計調査” / 国税庁より

こうした数字だけに目を向けると、就業状況は日本の方がかなり恵まれているように感じます。しかし実際の調査で報告された“はたらく幸せ実感”は日本が49.1%、インドネシアは90.5%。インドネシアの数値は日本のほぼ2倍。こうした結果の裏には、インドネシアの人々の就業観が大きく影響していると考えられます。

就業観

パーソル総合研究所が実施した調査の「労働価値観」において、調査対象となった全18カ国中、日本とインドネシアがそれぞれ1位となった項目があります。日本が1位になったのは「良い生活をするのに十分な賃金を稼ぐため」。一方インドネシアが1位になったのは「所属する組織に自分を捧げるため」。ちなみに日本は「所属する組織に自分を捧げるため」という項目において、最下位のポイントを記録しています。

今回の調査を通して明らかになったのは、「良い生活をするのに十分な賃金を稼ぐため」という労働価値観はほとんど関連性見られないのに対し、「所属する組織に自分を捧げるため」という労働価値観は“はたらく幸せ実感”と強い関連性がありプラスに働くということ。

私たちは生きていくために、仕事をし、それに見合った報酬を得る必要があります。そしてその報酬は多い方が良いというのも当然のこと。しかし調査結果を見ると、仕事で得られる報酬の多寡は、人の幸福感に直結する訳ではないということが分かります。

組織風土

そして調査の結果に関してもう1つ、日本とインドネシアで大きく差が出た項目が。それは就業者の“寛容性”。インドネシアが18カ国中1位であったのに対し、日本は香港に次いで2番目に低い結果となりました。

インドネシアは世界最多のイスラム教徒を抱える国ではありますが、憲法で信仰の自由が認められており、多民族・多宗教国家です。バックグラウンドの異なる様々な民族・宗教の人々が同じ職場で仕事をし、何か1つのことを成し遂げるには必然的にお互いを尊重し、協力する必要があります。こうした背景が、インドネシアの職場における“寛容性”を生んだと言えます。

またインドネシアには「Gotong Royong(ゴトングロヨング)」という文化があります。「Gotong Royong」という言葉はジャワ語で「一緒に仕事をする」という意味。しかし現在では“一個人の利益を優先するのではなく、お互いの幸せのために協力し合って物事を達成する活動”全般を指す言葉として使われているそうです。この精神は仕事や職場にも浸透し、誰かが何かに困っていたら助け合うという組織風土が築かれています。

お互いがお互いを尊重し、助け合う風土のある組織で働き、そうした組織に対して自分が貢献できることに喜びを感じる。どちらかというと賃金や報酬よりも、人々との繋がりや精神的充足感に重きを置くインドネシアの人々の就業観が、調査結果の示す高い“はたらく幸せ実感”に結び付いていると考えられます。

女性の社会進出

前半ではインドネシアの人々の就業観についてお伝えしましたが、今回のコラムでもう1つ取り上げておきたいのがインドネシアにおける女性の社会進出について。2022年のジェンダーギャップ指数を見てみると、インドネシアは69.70で92位、日本は65.00で116位。世界的に見れば2カ国ともまだまだジェンダーギャップが大きい状況ではありますが、実はインドネシアの方が日本より女性の社会進出は進んでいると言えます。

出典:“Global Gender Gap Report 2022” /World Economic Forum

具体的に女性の活躍状況を見てみましょう。2023年における女性議員割合は日本が15.50%であるのに対しインドネシアでは21.6%。また、2021年にMastercardが実施した「Mastercard Index of Women Entrepreneurs」という調査では、女性経営者の活躍状況を総合的に示したランキングでインドネシアは25位、日本は47位という結果となっています。同調査で示された“ビジネスにおける女性リーダーの割合”もインドネシアが30.4%であるのに対し、日本は14.3%という低い数値を示しています。

出典:“世界の女性議員割合 国別ランキング・推移” / GLOBAL NOTE Inc.“Mastercard Index of Women Entrepreneurs” / Mastercard Creative Studio.

政治面

ではなぜインドネシアでは、日本よりも女性の社会進出が進んでいるのでしょうか?政治的な面に関して言えば、やはりメガワティ・スティアワティ・スカルノプトゥリ大統領の存在は大きかったと言えるでしょう。初代大統領スカルノの長女でもある彼女は、第5代初の女性大統領として、2001年~2004年の期間任期を務めました。メガワティ大統領の政権下では女性の登用が積極的に進められ、2003年に制定された法律第12号では、国会や国民代表議会および地方議会の選挙に参加するすべての政党が、女性の代表を少なくとも 30%含むよう義務付けられています。

仕事との両立

そして経済的な面、特に仕事に関して言えば、インドネシアでは働く親が子どもを自分の親に預けたり、ナニーやベビーシッターを利用したりするのは一般的で、女性が働きやすい環境にあると言えます。都市部であっても3世帯同居、もしくは近居というケースが多く、父母・祖父母・兄弟など、複数の家族・親族からサポートを得ることが可能。そして、ナニーやベビーシッターの費用も比較的安く、都市部の共働き世帯であれば無理なく利用することができます。裕福な家庭であれば、数名の家政婦が住み込みで働くことも少なくありません。こうしたバックアップがあるおかげで、インドネシアの女性は安心して仕事に打ち込むことができているようです。

ちなみにインドネシアでは労働法2003年第13号により、女性の被雇用者は産前・産後に1.5ヶ月ずつ、合計3ヶ月の休暇を取得できることになっています。日本の産前・産後休暇は産前6週、産後8週であることを考えると、合計期間にほとんど変わりませんが、大きく違うのはインドネシアの産前・産後休暇は有給扱いであるということ。休暇中も給与は満額支給されます。日本では出産手当金や育児休業給付金の支給はあるものの、基本的に無休扱いです。

インドネシアでは日本の育児休業のような制度は法的に定められていませんが、先ほどお伝えしたように家族・親族からのサポートが得られる状況にあり、ナニーやベビーシッターも利用しやすい環境。そのため出産を機に退職するケースは少なく、産後早い時期から職場復帰する女性が多いそうです。

今回はインドネシアの就業状況と女性の社会進出についてお伝えしました。“寛容性”がありGotong Royong(ゴトングロヨング)の精神が浸透した組織文化、働く女性のサポート体制など…。このコラムが皆さんにとってインドネシアの新しい一面を知ることに繋がり、人事・DE&I担当者の皆さんが女性活躍推進や組織開発を考える上で何かヒントを得るきっかけになれば幸いです。

参照:
・ 株式会社国際協力銀行. 「インドネシアの投資環境/2023年2月」.https://www.jbic.go.jp/ja/information/investment/inv-indonesia202302.html, (参照 2023-05-23)
・ 世界の経済・統計情報サイト 世界経済のネタ帳. 「失業率の推移(1980~2023年)(インドネシア, 日本)」.https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=LUR&c1=ID&c2=JP, (参照 2023-05-23)
・SKILLED WORKER. 「【解説】インドネシア人の平均年収はどのくらい?生活費にはどのくらい必要?」.https://skilled-worker.jp/kaigo/kaigo-column/p481/#:~:text=Utama%2C%202022, (参照 2023-05-23)
・ 外国人採用サポネット. 「インドネシア人の特徴とは?性格や価値観・日本への印象を紹介」. https://globalsaponet.mgl.mynavi.jp/culture/352, (参照 2023-05-23)
・株式会社インドネシア総合研究所. 「【コラム】インドネシアのゴトン・ロヨン(相互扶助)文化」.https://www.indonesiasoken.com/news/indonesian-mutual-aid-culture, (参照 2023-05-23)
・株式会社インドネシア総合研究所. 「【コラム】インドネシア女性の社会的地位」.https://www.indonesiasoken.com/news/social-status-of-indonesian-women, (参照 2023-05-23)
・株式会社インドネシア総合研究所. 「【コラム】インドネシア女性の社会的地位」.https://www.indonesiasoken.com/news/social-status-of-indonesian-women, (参照 2023-05-23)
・株式会社インドネシア総合研究所. 「【コラム】インドネシア女性の働き方について」.https://www.indonesiasoken.com/news/how-to-work, (参照 2023-05-23)
・株式会社インドネシア総合研究所. 「【コラム】インドネシアの産休・育休事情」.https://www.indonesiasoken.com/news/column-maternity-leave, (参照 2023-05-23)
・Japan Agricultural Communication. 「【花開く暮らしと地域 女性が輝く社会】インドネシア『若い国』に夢を託す 千葉大学環境リモートセンシング研究センター ヨサファット・テトォコ・スリ・スマンティヨ教授に聞く」.https://www.jacom.or.jp/nousei/rensai/2021/08/210830-53566.php, (参照 2023-05-23)
・ 在大阪インドネシア共和国総領事館・総領事 ディアナES スティクノ. 「国民と国家の発展における女性の役割とリーダーシップの重要性」.https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/jinken/danjokyodosankaku/jigyoannai/womenday/kokusaijoseiday_2022.files/diana.sutikno.pdf, (参照 2023-05-23)
・東京コンサルティングファーム. 「~女性労働者に関わる規定〜」. https://kuno-cpa.co.jp/indonesia_blog/female-worker, (参照 2023-05-23)Digima. 「Tokopediaが初の女性CEO Melissa Siska Juminto氏就任を発表」. https://www.digima-japan.com/column/net/3788.html, (参照 2023-05-23)


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