なぜ女性活躍を推進していく必要があるのか
企業の人材戦略において「女性活躍」や「女性の管理職登用」といったキーワードは、いまや欠かせない視点になっています。そもそも、なぜ今女性活躍を推進していく必要があるのでしょうか。
日本の労働人口の問題
1990年以降、日本の労働人口は減少の一途をたどっています。これを経済用語で「人口オーナス期」と言い、少子高齢化が進み、働く人よりも税金などで支えられる人の割合が高まる時期のことを指します。これからの日本の労働力の維持・向上を考えた際に、国をあげて解決に取り組まなければなりません。
育児中や介護中など働く時間に制約のある人を活用しなければ労働力を確保できなくなります。労働力を確保するためにも、日本では男女関係なく、働く時間に制約があっても多様な人材が働ける環境をつくる必要があります。育児や介護による労働社会からの離脱が起こらないよう、企業や社会が変わり、人材を活用していくという視点が欠かせません。
女性活躍推進法について
日本政府も2015年8月に「女性活躍推進法」を国会で成立させ、「すべての女性が輝く社会づくり」を推進し、すべての女性がその生き方に自信と誇りを持ち、活躍できる社会づくりを進めています。女性活躍推進法では、従業員301名以上の企業に女性活躍の状況把握と行動計画の策定が求められています(300名以下の企業は努力義務)。
企業は「自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析」、「その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表」、「自社の女性の活躍に関する情報の公表」について、国への報告が必要になりました。
法律においても、「女性が家庭と仕事を両立させ、自分のキャリアを考えられる職場環境を整えること」を企業に求めています。
女性活躍を推進する企業のメリット
企業が女性活躍を推進していく際のメリットは大きく4点あると考えます。
(1)優秀な人材を確保できる。
優秀な女性が会社に留まる=出産後も働き続ける選択ができる体制であれば、優秀な人材を確保することができます。また、それまでの社員への教育=投資も損なわれません。
(2)社員の生産性が上がる。
女性活躍を推進することは長時間残業の是正が欠かせません。その組織風土を改善するために短時間でいかに成果を上げるかという視点にシフトせざるを得ないので、社員の生産性向上につながります。
(3)会社に多様性が生まれる。
女性が働き続けることにより、組織や事業に対し女性ならではの視点を組み込むことで多様性につながります。例えば、サービスを開発するにも、男性だけではなく女性の視点を盛り込むことでより良い物が生まれます。
(4)企業イメージ・価値が上がる。
「女性が多く活躍している」や「女性が働きやすい」といった会社は、企業イメージと価値の向上につながります。
このように、企業にも女性活躍を推進するメリットがあり、女性の就労人口は上昇しましたが、女性管理職はまだ他の先進国と比較すると低いというのが現状です。
日本における女性管理職の現状
日本の国際ジェンダーギャップ指数
世界国際フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数(2017)において、日本は世界ランキングが144ヶ国中114位とかなり下位に位置しているというのが現状です。下図を見れば、日本は教育や健康においては高い水準にあることが分かりますが、経済・政治参画はかなり低い数値になっていることがわかります。特に、経済や政治の分野で活躍する女性の数を増やすと同時に、「指導的地位」に就くことのできる環境をいかにつくるかが重要なポイントになります。
管理職の国際比較
海外諸国と女性管理職を比較してみると、日本では非正規雇用の女性が増えているため女性の就業者割合は他国とそれほど差がありませんが、管理職に占める女性の割合は諸外国と比べても13.0%とかなり低い水準となっています。この数値からも、日本における女性活躍推進が急務であることが分かります。
(出典:内閣府男女共同参画局 平成28年度 就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較))
日本の女性管理職比率
この約10年間で女性管理職の割合は増加傾向にありますが、大幅に割合が高まったとは言えない状況です。先にお伝えした「女性活躍推進法」が平成27年に成立しましたが、それ以降も大きく伸びることなく推移しています。
40代以降の正規雇用・非正規雇用の数
(出典:内閣府男女共同参画局 年齢階級別非正規雇用者の割合の推移)
まだまだ子育てのために仕事を辞めてしまっている事実
女性は本当に管理職になりたくないのか?
実際に企業の人事担当者の方からは、「女性が管理職になりたがらなくて困っている」「特に結婚・出産後は安定志向になり挑戦したがらない」という話を伺います。実際に、アイデムが従業員規模100人以上・正社員30人以上を雇用し、5年以内に妊娠した女性正社員がいる1,428社を対象に行なった「女性活躍」の調査では、女性管理職が増えない理由として「女性本人が希望しない」が1位となっています。
こういったデータがある一方で、当社で行った調査では「管理職を経験してみたい」と回答した女性のほうが大多数という結果になりました。
実際は、「管理職を経験してみたい」という女性は約70%
当社が行なった子どもがいない働く女性に実施した調査では、「求められればマネージメント(管理職)を経験してみたい」と回答した人は66.5%という結果になりました。この約7割という数字から、女性達が管理職という仕事に対して後ろ向きな訳ではないことが分かります。
(出典:スリール発行 両立不安白書)
約7割もの女性が管理職を経験してみたいと回答したにもかかわらず増えないのはなぜなのでしょうか?
突然の登用は要注意!女性管理職になる為の意識のステップを理解する
女性たちが「管理職になる」ことを意識するためには、多くの場合意識のステップが存在します。この意識のステップに気づかずに、当然「登用」をしても上手くいかないことが多くあります。特に以下のステップのように「仕事と子育ての両立」への安心感や、「自分ができる」という自信が、ステップを乗り越えていくためには必要であり、その点に悩んでいる女性が多く存在しています。
管理職になる上での2つの壁
女性たちがしっかりとステップを上がり管理職になる際には、2つの壁があります。
●(子育てしても)働き続けられるかもと思う へステップアップする際の壁 →壁①:「仕事と子育ての両立」への不安感(両立不安の存在)●働き続け、キャリアアップできると思う へステップアップする際の壁 →壁②:「自分ができる」という自信がない(インポスター症候群の存在) |
管理職にならない女性の本音と解消法①:両立不安の存在
女性の本音①:両立不安の存在
まずは、壁①として挙げた「仕事と子育ての両立」への不安感についてです。管理職になりたいのにならない女性の本音として、「両立不安」の存在があります。
当社の調査で、女性は「仕事と子育てを両立することが不安」というデータがあきらかになっています。管理職のオファーをもらう20代後半から30代は、女性の結婚や出産などライフイベントの時期と重なるため、管理職として働く一方で子育ても両立する必要があります。
アンケート結果では、出産を経験していない働く女性の92.7%が「両立不安」を感じているということがあきらかになっています。実際に、働き続けたいのに仕事を諦めたり、子どもが欲しいのに子どもを持つことを諦めたりしてしまう女性が多くいるというのが現状です。
(出典:スリール発行 両立不安白書)
他にも、「子どもが生まれたら、自分が家事や育児をメインでやることになると思う」という人が82.4%。女性自身も、家事や子育ては自分がメインに担当し、夫はあくまでもサポートという意識を持っています。
また、「今の仕事で成果を出すためには『時間』を掛ける必要がある」と考えている人が77.3%という結果が出ています。一方、「子育てをする上では『時間』を掛ける必要がある」と考えている人も94.0%。仕事と子育てを両立するには、「しっかり」「自分で」やらないといけないと考えている人が大多数であるということが分かります。
このように、多くの女性は、「両立不安」を抱えているのです。
女性が「両立不安」を感じてしまう原因
具体的に働く女性達は、どのようなシーンを見て不安を感じているのでしょうか?
「不安を感じる原因になったシーンを全て教えてください」という質問に対し、
1位「会社の中での働き方・子育て中の社員を見て」73.3%
2位「ニュースなどの情報を見て」39.9%
3位「電車やバス、公園などの公共の場で状況を見て」25.1%
という結果に。実際に寄せられたコメントを詳しく見てみると、周りで見聞きしたことから「こうしなくては」「でも無理だ」と思うようになっていくことが分かります。
【会社での出来事が原因で不安を感じている】 ・「ワーキングマザーがみんなスーパーウーマンみたいな人ばかり」という先輩の姿。 ・「以前は営業だった人がワーキングマザーになると事務職になっている」という同僚の姿。 ・「夜中まで働く・頑張るのが当たり前の会社だからこのままでは子育てはできない」という現在の働き方。 ・「上司から今あなたがいなくなると困る」という上司からの言葉。 |
【メディアの情報が原因で不安を感じている】 ・「母親は子どもを優先するべき」「保育園に預けるのは子どもがかわいそう」という刷り込まれた理想の母親像。 ・「メディアが報じるワーママの現状は本当に大変そう」というワーキングマザー像。 ・「待機児童が多くて『保活』をして保育所に預けられるのか」という待機児童問題。 |
【公共の場での出来事が原因で不安を感じている】 ・「周囲の人が電車で泣いている子どもを面倒くさそうに見ている」という子どもに不寛容な環境。 ・「公共の場で騒いだり泣き続けたりする子どもを見て自分の子どもをきちんと愛してしつけることができるか」という子どもの対応への不安。 |
解消法①:両立不安の解消
女性の「両立不安」を解消するためには、女性が負担している家事・育児の責任を支援し、女性の意欲を引き出すことが重要です。
まず、家事・育児の責任を支援するためには、柔軟な働き方ができる環境づくりが必要です。最近では時短勤務制度を設ける会社が増え、産休・育休後も仕事を継続する女性は増加傾向にあります。企業が取り組み始め、まだ改善の余地は多分にありますが、少しずつ女性が仕事を続けやすい制度を持つ会社が増えているのが現状です。
次に、女性の意欲を引き出すためには、”やりがいのある仕事”を任せていくことが大切になります。とはいえ、女性に男性と同じような仕事を任せても女性の意欲は高まりません。つまり、組織や上司は、女性に対し「男性と同じ働きぶり」を求めてはいけないのです。
そこで、女性の意欲を引き出すための鍵となるのが、「上司」です。仕事を適切に割り振り、その進捗を管理し、出た成果を適切に評価するのが、上司の役割です。女性の意欲を引き出すためには、女性の志向を正しく理解し、挑戦的な仕事を任せていく必要があります。上司や周囲のサポート・理解、そして男性の意識改革が必須。まずは上司を変えて組織を変えるために、できることから始めてみましょう。
管理職にならない女性の本音と解消法②:インポスター症候群の解消
管理職になりたがらない女性の本音として、壁②で挙げた「自分ができる」という自信がないというインポスター症候群の存在もあります。
女性の脳内は、「キャリア・プライベート・周囲との関係」という3つの軸を同時に考えてしまう構造になっています。「女性よりも男性の方が出世欲が高い」というような研究は以前から多く出されていますが、実は「周囲の環境が影響している」ということが研究で明らかになっています。
アメリカで行われた研究では、女性が男性より劣るというステレオタイプがある仕事の場合、女性は男性に比べて自分の能力をより厳しく評価したほか、自身に課すレベルをより高く、厳しくする傾向があることが明らかになっています。
(Shelley Correll, “Constraints into Preferences: Gender, Status, and Emerging Career Aspirations,” American Sociological Review Vol 69, Issue 1, 2004)。
男性と女性の能力が一緒であっても、女性の方が自分の評価を低く提示してしまうということです。特に、そのような行動は「女性が男性より劣るというステレオタイプがある仕事」の時に強く表出し、またそのような仕事に対して女性の関心は低下するという点が重要になります。
詳しくは、【女性の脳内構造その2】なぜ女性はリーダーに手を挙げないのか?の記事をご覧ください。
解消法②:インポスター症候群の存在
まず、企業や上司は、「女性は男性よりも自己評価を低く出す」点を理解することがポイントです。女性社員にリーダー職を打診した際に、「自分には無理です」という返事があったとしてもそのまま鵜呑みにしないように注意してください。
「自分ができる」という自信がなかったり、自分自身の能力を過小評価したちしている可能性を考慮し、まずは「なぜそう思うのか?」をヒアリングし、今までの仕事への「実績」や「評価」を伝えていきます。その上で、この先上司としてどうフォローしたり相談に乗っていくかなど具体的な「見通し」を立てられるよう伝えると、先読みをする女性達も安心して打診を受け、しっかりと仕事を進めてくれます。
そして、注意しなければならないのが、管理職は女性のやる仕事ではなく”男性の役割”というステレオタイプを植え付けている職場かどうかという点です。そのような環境で女性が管理職に登用された場合、男性に比べ彼女たちは自分たちにより高く厳しい基準を求めてしまい、仕事に対する関心が減少していきます。研究論文では、特に管理職に男性が多い職場では、経営層や上司が「仕事の能力には『ジェンダーは関係ない』」と明言することが重要と明示されています。
このような点をふまえた上で、女性が管理職に挑戦する場合は「どうフォローしていこうと考えているのか」などの見通しも伝え、安心させてください。
壁を取っ払い、意識のステップを登ってもらう方法
管理職になるまでの意識のステップを女性に上ってもらうために、当社では「若手女性社員研修」と「女性管理職育成コンサルティング(メンター制度構築)」の支援を行なっています。
若手女性社員研修
若手女性社員研修は、女性社員が自律的に行動するためにライフも含めた長期的なキャリアを考えながら課題を解決していく研修です。実際に3年後のキャリアを考え、そのために必要なアクションを知り、周囲を巻き込んでいくスキルを学びます。講座だけではなくワークショップを複数組み合わせることで、一歩を踏み出す意識を芽生えさせます。実際に参加者からは「人生を考えるきっかけになった」「キャリアップを考えるようになった」、「明日から発信してみます」という声をいただいています。
「若手女性社員が根付かない(28歳前後で辞めてしまう)」、「子育て中の女性社員が,ほどんどいない」、「女性社員がキャリアに前向きではない」という悩みを解決します。若手の女性社員が、子どもが生まれるなどのライフステージが変わってもキャリアアップできる人材になるための知識・マインド・コミュニケーションを学び、自律的に行動する人材を育てるためのキャリアデザイン研修です。会社の状況や研修の構成により、男性社員も参加が可能です。
女性管理職育成コンサルティング(メンター制度構築)
女性管理職への意識のステップを登り、無理のないキャリアアップを実現する仕組みを構築する必要があります。女性管理職育成コンサルティング(メンター制度構築)では、根本的なコンサルティングにより、企業の女性管理職を増やしていくための取り組みを支援します。コンサルティングを受けた企業の参加者からはメンター制度を構築することで、「キャリア形成に向けて今からすべきことを整理することができた」、「キャリアアップを意識するようになった」という声をいただいています。
「管理職を希望する女性社員が少ない」、「女性を管理職に登用しても、すぐに辞めてしまう」、「女性管理職の施策がわからない」という悩みに対し、会社が女性社員の考えを理解した上で無理なく女性社員の管理職への意識を高めることのできる支援です。
この研修のポイントは、下記3点になります。
(1)女性社員が強制ではなく、自ら女性管理職へのキャリアアップへの意識を高める
(2)多様なロールモデルとの出会いから、自らキャリアの選択肢を考えることができる
(3)同期と切磋琢磨し、キャリアアップすることへの心理的安全性を保つことができる
体験や疑似体験ワークショップなどの独自の研修プログラムにより、社員自らが体感し、考えることで「腹落ちした」「リアルにイメージできた」という意識改革を促し、
具体的なアクションに繋げることを目的としています。
ぜひ、ご相談ください。
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