コラム

子育て社員のためだけじゃない!イクボスが組織にもたらす5つのメリット

部下やスタッフそれぞれのワークライフバランスを考えながら、自身も仕事と私生活を楽しむ「イクボス」。現在、イクボス宣言やイクボス企業同盟などで注目されています。イクボスにはどのような意味があるのか、組織にどのようなメリットをもたらすのかをご紹介します。さらに、イクボスになるためにはどのような点に気をつければ良いのかも専門家が解説いたします。

公開日:2018.12.21更新日:2023.06.20staff

イクボスとは

イクボスは、NPO法人ファザーリング・ジャパンが2014年に立ち上げた、「イクボスプロジェクト」をきっかけに社会に広まった言葉です。ファザーリング・ジャパンでは次のように「イクボス」を説明しています。

 

「イクボス」とは、職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことを指します(対象は男性管理職に限らず、増えるであろう女性管理職も)。

 

つまり、イクボスは部下やスタッフのキャリアと人生を応援しつつ、イクボス自身もワークライフバランスを実現している管理職や上司であることが言えます。

 

イクメン・イクボスが必要となった社会背景

「イクボス」と似た言葉で「イクメン」という言葉があります。
「イクメン」とは、「子育てする男性(メンズ)」の略語です。単純に育児中の男性というよりは「育児休暇を申請する」「日常的に育児に参画する」など、積極的に子育てを楽しみ、自らも成長する男性を指します。実際には、育児に積極的に参加できていなくても、将来的にそうありたいと願う男性も含まれます。
2010年6月、少子化打開の一助として厚生労働大臣が声明を発表し、男性の子育て参加や育児休業取得促進などを目的とした「イクメンプロジェクト」が始動しました。それをきっかけに、「イクメン」という言葉が世間一般に広く知られていきました。

ではなぜ、家庭の中で育児参画をする「イクメン」だけでなく、職場でサポートする「イクボス」が必要となったのでしょうか?
日本の社会問題と合わせてご紹介していきます。

 

女性の社会進出

1985年に男女雇用機会均等法が制定されて以降、日本社会では男女に関わらずすべての人が雇用や労働において平等に扱われることが企業に求められ始めました。
それによって、女性が社会進出がより活発となり、共働き世帯が社会全体で増加しました(下図)。

   (出典:http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h26/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-08.html

 

男性の育児参加の現状

共働きが増えている一方で、男性が子育てや家事に費やす時間をみると、2016(平成28)年における我が国の6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間は1日当たり83分となっています。2011(平成23)年調査に比べて16分増えているものの、先進国中最低の水準にとどまっています。(下図)。

(出典:http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-08.html

 

男性の育児参加と第二子出生の相関性

また、夫の休日の家事・育児時間と第2 子以降の出生状況をみると、両者には正の関係性がある。つまり、「男性が育児・家事」に参画している家庭ほど、第2子が生まれやすい」ということが調査でも明らかになっており、少子化対策においても男性の育児参画が重要な点だと言えます(下図)。

 

このように家庭の中で育児参画をする「イクメン」は、以下3点の社会背景から、促進されるようになりました。

①共働き率の向上
②男性の育児参画の低さ
③男性の家事・育児参画と第2子出生の相関

 

法制度もその流れに合わせて変化しています。1992年には男性の育児休業取得を可能とする「育児休業等に関する法律」が制定。
その後、1999年に育児だけでなく介護休業についても定めた「育児・介護休業法」が施行されました。
そして、現在安倍政権においては、「3本の矢」の成長戦略の1つとして女性活躍を目指した政策が実行されています。女性が仕事を継続し、長く社会で輝き続けるためには、男性の育児参加がとても重要な要素であると言えます。

 

男性の育児取得希望者は多い

現在の男性の育児休業取得率は、平成29年度には過去最高の5.14%を記録。上昇傾向にはありますが、女性の育児休業取得率83.2%から比べるとまだまだ低い数値です。法制度も整備し、国で大きくプロジェクトを始動させているにも関わらず、男性の育児参加・育児休業の取得は殆ど伸びていないのが現状です。
男性は育児休業を取得したくないのかというと、そういう訳ではありません。ユーキャンが全国の男性ビジネスマン497名を対象に男性の育休取得促進を目的とした「男性の育児休暇取得に関するアンケート」では、育児休業を取得したいと希望している男性は「83.9%」にも上りました。実際に希望者が多いにも関わらず、なぜ取得率は伸び悩んでいるのでしょうか。

 

男性が育児休業を取得しない理由

厚生労働省の調査によると、「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」という回答が最も多く、「残業が多い等、業務が繁忙であったため」という回答が次いで多く見られました(下図)。

 

また、同資料の「家事・育児時間を増やすために必要なこと」という質問項目に対しては、「残業が少なくなること」「休暇がとりやすくなること」「職場の人員配置に余裕ができること」などの回答が多くなっています。(下図)
このように調査から、男性が家庭で参画していくためには、「企業での後押し」が必要であることが明確なのです。

 

パタハラ問題

また上記のような「会社の中での理解不足」の現象として、育児参加を望む男性社員に対して、嫌がらせや差別的発言をする「パタニティ(=父性)・ハラスメント」が問題となっています。
この原因には、マネジメント層に立つ中高年の社員との世代間格差があると言われており、マネジメント層の社員が性別役割分業意識を強く持つ場合に起こりやすいと言われています。
日本労働組合総連合会が行った調査では、「職場でパタハラをされた経験がある」と回答した人は 11.6%、「周囲でパタハラにあった人がいる」と回答した人は10.8%に上ると言われており、男性の育児参加を促進するためには、マネジメント層の意識改革も必要であることがわかります(下図)。

このような調査から、男性が家庭で参画していくためには「職場での理解」なども企業での後押しが必要であることが分かります。
そのため、男女問わずより育児休業を取得を取得したり、家事・育児に時間をかけられるようなマネジメントを行う、管理職や経営者つまりは「イクボス」が求められているのです。

 

 

イクボス10ケ条とは

イクボスが求められるようになった背景はお分りいただけたかと思います。
しかしながら、イクボスの定義である「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司」になるには、どういった点を押さえていく必要があるのでしょうか。

イクボスを提唱するファザーリング・ジャパンでは、イクボス10ケ条を次のように定めています。

1. 理解
現代の子育て事情を理解し、部下がライフ(育児)に時間を割くことに、理解を示していること。2. ダイバーシティ
ライフに時間を割いている部下を、差別(冷遇)せず、ダイバーシティな経営をしていること。3. 知識
ライフのための社内制度(育休制度など)や法律(労基法など)を、知っていること。4. 組織浸透
管轄している組織(例えば部長なら部)全体に、ライフを軽視せず積極的に時間を割くことを推奨し広めていること。5. 配慮
家族を伴う転勤や単身赴任など、部下のライフに「大きく」影響を及ぼす人事については、最大限の配慮をしていること。

6. 業務
育休取得者などが出ても、組織内の業務が滞りなく進むために、組織内の情報共有作り、チームワークの醸成、モバイルやクラウド化など、可能な手段を講じていること。7. 時間捻出
部下がライフの時間を取りやすいよう、会議の削減、書類の削減、意思決定の迅速化、裁量型体制などを進めていること。8. 提言
ボスからみた上司や人事部などに対し、部下のライフを重視した経営をするよう、提言していること。

9. 有言実行
イクボスのいる組織や企業は、業績も向上するということを実証し、社会に広める努力をしていること。

10. 隗より始めよ
ボス自ら、ワークライフバランスを重視し、人生を楽しんでいること。

 

 

イクボスがもたらす5つのメリット

イクボスが増えることは、組織にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?
残業時間が減り、休業中の社員が増えることは一見組織の業績にマイナスな効果をもたらすようにも感じられます。しかし、社員が仕事だけでなく個人の私生活も大切にすることは組織にとっても大きなメリットがあります。

 

メリット1:社員一人ひとりの活躍度が高まる

社員が自身の私生活を大切にすることによって、会社外での人との交流や学びの場を得ることにつながります。会社の業務では得られない新しいインプットが増えるため、業務にも新しいアイデアをもたらすことが期待されます。
特に、育児や家事に携わることは生活者としての視点を得ることに大きく寄与します。

 

メリット2:仕事の効率が高まる

子育て中の社員は「◯時までに子どものお迎えにいかなければいけない」などの時間の制約を持っていることが多いです。限られた時間の中で、決められた業務を行うために、逆算して仕事を進めるクセがつくため、自然と業務効率が高まります。

少ない残業時間でも、変わらず業務を行う社員が増えれば、残業代のカットにもつながり、企業の支出も削減できることが期待できます。

 

メリット3:社員の精神の健康を保つ

余暇の時間を持つことは、個人の精神の健康や安定にも寄与します。趣味の時間や家族との時間を大切にすることは、心身ともに健康で長く働き続けられる効果をもたらすでしょう。
メンタルヘルスが減ることによって、離職率が軽減されることも見込まれます。

 

メリット4:人材採用コストを軽減

後ほど紹介する「イクボス企業同盟」など、イクボスが多いことを宣伝・広報に活用することができれば、優秀な人材を集めやすいというメリットももたらします。男女問わず仕事とライフの両立が実現できる組織は、ライフスタイルが多様化する現代では、多くの人々が求めていると考えられるためです。

 

メリット5:組織のチームワークが向上する

それまでの業務を短い業務時間で行う場合、一人の力ではなく、チーム全体で協力し合いながら進めることが必要になります。その結果、チーム内で協働が生まれやすい柔軟な組織をつくることに繋がります。
また、休業に入る社員が出る場合にも適応する必要があるため、組織内に多能工が増えるというメリットもあります。

 

イクボスを増やすために必要なこと

それでは、イクボスを組織内で育てるために、人事や組織ではどのようなことが必要なのでしょうか?
ファザーリング・ジャパンの理事を務める川島高之氏は次の4つが必要だと述べています。

①トップの強いメッセージと行動
②人事評価、就業規則などの改訂
③クラウド、AIなどのICT投資
④管理職の意識と行動改革

川島氏は特に④管理職の意識と行動改革が最も重要であると言います。

それでは、管理職が従来の働き方に対する固定観念を捨て、自身も組織のメンバーも充実した仕事と私生活のバランスを取ることを目指すことが必要なのです。

 

イクボスとしてすべきこと

自身が管理職である場合、どのような目標を立て、どのように行動を取れば、イクボスとなれるのでしょうか?

部下の仕事とライフに寄り添うこと

部下がキャリアや私生活において、何を目指しているのか、どう成長したいのかに耳を傾け、それに寄り添うことが重要です。この職場にいることは、自身の生きがいややりがいを得ることに繋がると部下自身が感じることで仕事へのモチベーションが高まり、生産性も向上します。

男女問わず、育児休業などライフでの大切にしたい時間を尊重することに繋がります。

 

時には断る覚悟、やめる覚悟を

自身よりも上の役職の管理職、または取引先とのコミュニケーションにおいて、なんでも引き受けたり、なんでも肯定するのではなく、組織のメンバーと生産性を守るためにも時には断る勇気が必要です。また、不必要な業務や重複した作業は減らし、断捨離する勇気も持ちましょう。

 

時間泥棒を退治する

「結論が出ず、先送りばかり」「出席者は多いが、発言者は少ない」「資料説明が多い」こんな会議はありませんか?会議の際には事前にゴールを決め、議事録はその場で取り、必要最低限の出席者を招集し、業務の効率化を図りましょう。

また、メールでのやりとりは簡略化する、社内資料を減らす、など業務の中にある不必要な時間は積極的に減らします。それによって、業務時間が短縮され、チームのメンバーそれぞれの残業時間を軽減できます。

 

 

イクボスを増やすための取り組み

イクボス宣言とは

イクボス宣言とは、イクボスとしての宣言を広く外部に対して行うことを言います。ファザーリング・ジャパンが行うイクボス・プロジェクトの一部であり、現在は厚生労働省においても「ニッポン総イクボス宣言プロジェクト!」が行われています。
こちらから、全国の企業や地方自治体におけるイクボス宣言の動画をご覧いただけます。

 

 

イクボス企業同盟とは

イクボス企業同盟とは、ファザーリング・ジャパンの活動に賛同し、加盟した企業同盟のことを指します。加盟には以下の条件があります。

① ダイバーシティ経営の推進を行っている、これから行おうとしている

② 管理職の意識や働き方改革を模索している

③ 経営トップがそのことに理解があり、経営戦略としてコミットしている

「イクボス企業同盟」の画像検索結果

 

また、現在イクボス企業同盟の他にも以下のように同盟が分けられています。

・イクボス企業同盟
・イクボス中小企業同盟
・イクボスリフォーム企業同盟
・イクボスITベンチャー同盟
・“地方版”イクボス企業同盟

自身の組織の形態にあった、企業同盟に加盟することが可能になっています。

加盟申し込みページはこちらからご覧いただけます。

 

まとめ

ここまで、イクボスという音葉が生まれた経緯を整理し、イクボスのメリットやイクボスになるために気をつけるべき点についてご紹介しました。

最後に、もう一度イクボスが組織内に増えることのメリットをおさらいしたいと思います。

 

・組織のメンバー一人ひとりが自身のライフを大切にすることによって、新しい人との出会いや交流が生まれ、インプットの場が広がる。生活者視点での発想が生まれやすい

・限られた時間内で成果を出そうとするため、生産性が向上する

・精神の健康が保たれ、メンタルヘルスの軽減や離職率の低下が期待できる

・イクボス宣言を広報として活用することで、優秀な人材を確保しやすくなる

・組織のメンバー内で協働が必要となるため、変化に柔軟でチームワークの高い組織づくりにつながる

 

いかがでしたでしょうか?男女問わず、自身のキャリアとライフの両立ができる職場づくりをすることで、個人にも組織にもイクボスは良い影響をもたらします。

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