先日の11月19日は「国際男性デー」。世界39ヶ国で記念日とされている中、今年は日本でも話題を呼びました。国際男性デーとは、「コミュニティー、家族、結婚および育児に関して男性と男の子への差別に光を当て、その問題に取り組み、解決していくために、男性の健康と生の平等について考える日」です。そんな中、今回は「男性の育児休業取得」をテーマに取り上げていきます。
年明けに子どもが生まれる予定の小泉進次郎環境相(2019年11月現在)が育休の取得を検討していることについて、賛否両論が巻き起こったことは記憶に新しいかと思います。昨今男性の育休制度の義務化が議論されていますが、男性が育休を取得することはまだまだ珍しい選択とも言えるでしょう。
実際に、2018年の男性育休取得率は6.16%と、比較できる1996年以降最高の数値は更新したものの、2020年までに13%の取得率を目指す政府目標とは依然大きなギャップが残っています。
一方で子育て環境の整備が進んでいると言われる北欧諸国では、スウェーデンが26%(2016年時点)、ノルウェーにおいてはなんと76%(2018年時点)の男性が育休を取得しているようです。
では、なぜ日本では男性の育休取得率が伸び悩んでいるのでしょうか?
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世界に比べ、実は恵まれている?!日本の育休制度
調べていく中でまず驚くべきことが分かりました。
それは、『世界と比較した時に、日本の男性育休制度は恵まれている』ということ。そもそも育児休暇の期間に支払われる給付金は67%*1であり、日本は男女共に同等の支給額が雇用保険から支払われます。
ユニセフの調査によると、上記のような父親の育休期間に支払われる支給額 ※2は日本が世界一位 ※3であることがわかっています。一方で、同調査では実際の男性の育休取得率の低さも指摘され、取得しない理由の分析もされています。
また、北欧の男性育休率が伸びたきっかけとなった「パパクオーター制度」(育休の一定期間を父親に割り当てるもの)を模範とした「パパ・ママ育休プラス」※4も2010年から施行されていることはご存知でしょうか?
日本に今ある制度が想像以上に恵まれていたことに驚いたと同時に、制度内容、賃金手当の点のみ比べてみると、子育て先進国と言われる北欧と大きな違いはないように見受けられます。
条件面ではこんなに恵まれているのになぜ取得しないのでしょうか。
※1 育児休業を開始してから180日までの支給額。180日以降は50%になる。(2019年11月現在)
※2 取得可能な産休育休期間に賃金に対する給付金額の割合を加味し、賃金全額が支給される日数に換算した結果をグラフ化したもの。(日本は賃金の30.4週相当になり、世界一の基準である)
※3 経済協力開発機構(OECD)、欧州連合(EU)のいずれかに加盟する国41カ国について2016年時点の状況を比較
※4 父親と母親の両方が育休を取得すれば、育休期間を通常1年から1年2カ月まで延長できる制度。母親の出産後すぐの時期に父親が育休を取得しやすくしたもの。父親が、子どもの出生後8週間以内に一度育休を取得すると、子どもが1歳になるまでの間に再度父親の育休取得が可能。
<出典>
厚生労働省リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000169713.pdf
Are the world’s richest countries family friendly? Policy in the OECD and EU, Yekaterina Chzhen, Anna Gromada, Gwyther Rees, June 2019 (P10-11)
見えないけれど、重い『職場の雰囲気』
既述のユニセフの調査では、日本の男性が育休を取らない理由として、「人が足らない」「育休を取れる雰囲気ではない」「出世に響く」などが挙げられています。
また、他の調査でも「職場の理解が得られにくい」「女性に比べ男性が育休を取得しにくい雰囲気がある」など、上記と同じ理由が挙げられていました。
人手不足、出世といった理由は企業規模や父親となる人のポジションにもよるため、ひとくくりに考えることができません。しかし、『育休を取れる雰囲気ではない』という理由がいずれの調査でもトップ3にランクインしていることに違和感を感じます。
<出典>
Are the world’s richest countries family friendly? Policy in the OECD and EU, Yekaterina Chzhen, Anna Gromada, Gwyther Rees, June 2019 (P12)
平成 29 年度 仕事と育児の両立に関する実態把握のための 調査研究事業報告書 企業アンケート調査結果, 三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 平成30年1月 (P75)
三者に潜む「子育て=女性の仕事」という意識
この『雰囲気』はどこから生まれているものなのでしょうか?
更に深掘りする中で、一つの要因として「意識の問題」があるのではないか、と考えました。
ここからは、「①男性の意識」「②女性の意識」「③周りの意識」の3つの視点でまとめていきます。
① 男性の意識
内閣府の調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、日本では5割以上が「賛成」派である一方、欧州各国では「反対」派が5割を超えています。
また、その考え方がそのまま反映されているように感じたのは、育児分担の比率です。
日本では、6割強が「妻のみ(もしくはメイン)」で行なっており、「妻も夫も同じように行う」比率は3割程度。「妻も夫も同じように行う」割合が5割を超える欧州各国に比べ、日本のワンオペの実情が浮き彫りになっています。
内閣府の別の調査でも6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間を他の国と比較したところ、家事・育児時間が一番長いのは日本の母親、一番短いのは日本の父親という結果でした。
以上の調査結果・他の国との比較からも、日本には「子育て(家庭)=女性の仕事」という考えが深く根付いているため、男性が仕事外(ここでは子育ての意)と考えられることのために職場を一時的でも離れることは厳しい”雰囲気”を感じます。
<出典>
内閣府, 平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告書, (P32, P42,-43)
内閣府 男女共同参画局, 男女共同参画白書 平成30年版 , 第2節 仕事と子育て・介護の両立の状況, -3-8図 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日当たり,国際比較)
② 女性の意識
この考えは女性側でも同様の傾向が見られました。
スリールの調査でも、子どもが生まれたら「家事と育児の主担当は自分だと考えている」女性が全体の8割強と多く、女性側でも夫はあくまで”サポート”だと意識が根付いていました。
<出典> 両立不安白書, スリール株式会社調べ 23~47歳の女性498名へのインターネット調査 (2017年1月3日〜2月14日)
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③ 周りの意識
また、Yahooのアンケート調査では、男性育休義務化について賛成派は45.5%と、反対派41.1%より若干上回っているものの、反対派の意見としては「育休取って家にいても役に立たないのでは?」といった、はなから男性を戦力外と考えている意見も見受けられました。
マイナビのアンケート調査でも、「男性が育休を取ること」については賛成派が91%と好意的なものの、「実際に同僚が取ったらどう思うか?」については「正直迷惑だが仕方なくサポートする」が77%という結果でした。頭では理解できるけれど実際は難しい、ということなのかもしれません。
これらの調査を見ていく中で、言葉にはできないけれど確実に存在する、育休を取りにくい雰囲気、忖度が存在することが分かります。
日本の男性の育休取得率の低さにおいて、『男性が育休を取る選択をしないこと』、そのことだけが非難されるべきではないのではないでしょうか。決して怠慢で育休を取らないわけではなく、取りにくい雰囲気を女性も含め、周りが意図せず作ってしまっているのかもしれません。
<出典>
「男性の育休義務化、どう思う?」, Yahoo!ニュース 意識調査調べ, 12,062票 (2019年5月18日〜5月28日)
「男性の育児休暇に関する意識調査」, 日本法規情報調べ, 全国の男女1,370名(2014年2月20日~3月6日)
意識を変革する抜本的な仕組みが必要
今までの調査を受け、日本では家事や育児といったお金の発生しない労働が、時間も意識も女性に偏っているということが明らかになってきました。
また、男性の育休についても、取得に対して男性側に前向きな気持ちはあり、制度も整っていることも分かりました。実際に日本生産性本部のアンケート調査によると、新入社員(男性)の79.5%が「子どもが生まれた時には育休を取得したい」と回答しており、育休に対する意識は年々高まっているようでした。
育休を取得し、子どもが生まれた瞬間から子育てに参画する意識はあっても取得率が伸び悩む背景には、職場の雰囲気が大きく影響していることはこれまで述べてきた通りです。男性側も、育休を取得したいという意識が高まっているにも関わらず、周りの国に比べてもこんなに子どもと関われていない(関わる機会が持てない/持たない)のは残念な事実だと思います。
<出典> 2017年度 新入社員 秋の意識調査, 公益財団法人 日本生産性本部
今、そんな状況を打開するために、様々な業界で男性育休100%宣言 *を行う企業が出てきました。
大同生命、積水ハウス、リクルートコミュニケーションズなど、実際に100%取得を実現している企業も増えてきており、世の中の流れは大きく変わりつつあります。また、メルカリ、サイボウズ、文京区長など、トップポジションの方達が育休を取得する前例も増えてきました。
* 男性育休100%宣言とは、株式会社ワーク・ライフバランス(代表取締役 小室淑恵)の声かけの元、男性の育児休業取得率100%に向け目標を持ち、具体的な対策をしている企業の経営者がこれまでの慣習を改革すべく賛同、宣言しているもの。(今後は宣言一覧を持って、政府へも男性の育児休業給付金の給付率の引き上げ等を働きかける予定とのです)
意識の問題はなかなか根深いものだからこそ、周りの国と比べた日本の状況、そして、自分たちに与えられた制度をきちんと知ることで、男性・女性・周りの三者それぞれが意識を改革していくことが必要なのかもしれません。また、この根深い意識が変わらない限り、いくら制度が整っても日本の子育てを巡る環境が大きく変わることは難しいのかもしれません。
しかしながら妊娠期間がなく、女性に比べ子どもが生まれる実感を持ちにくいと言われる男性がいきなりポンと「育休」や「時短勤務での子育て」を与えられてもどうすれば良いか分からないもの。その為、現在「男性の育児休業義務化」の動きや、育児休業の取得の際に意識を高める為に各企業が「父親ブートキャンプ」というプログラムを行うのが良いのではないかなどの意見が上がっています。
このように、企業の中でも「意識を変革する抜本的な仕組み」を取り入れてみませんか?
先進的な企業事例を2つご紹介します。
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全社員で「育児中・介護中の社員体験」
●企業:キリン株式会社
●研修概要:1カ月間、2歳児を持つママになりきり、定時退社や突発的な早退など9つのルールを守りながら仕事をするという試み。女性が実際にライフイベントを迎えても、働き続ける自信を持てる事を示しただけでなく、高い成果を出しながら働き続けるために必要な、周囲のマネジメント向上策や、組織カルチャー変革のきっかけにも繋がり、2018年より全社で実施。
●特徴:この取り組みの特徴は、何といっても社員たちのアイディアによって始まり、周囲を巻き込みながら成果を出していくことができた点です。2017年2月、「新世代エイジョカレッジ・サミット」で「エイジョアワード 大賞」を受賞するなど、全社にも取り組みが広がっています。
マネジメント研修で「育児中の社員体験」
●企業:スリール株式会社
●対象者:若手マネージャー職やリーダー職
●研修概要:管理職やリーダー職に向けた、長期の体験型研修プログラムです。時間制約のある社員の生活を体験することで、 抜本的に意識が変わり行動を継続させる、実践型の「意識改革プログラム」です。 17時に強制的に帰り、保育園に子どもを迎えに行き、子どもと触れ合う。またプログラムの期間には、自分のメンバーのプライベートをヒアリングしたり、子育てだけではなく介護・不妊治療など多様な社員のヒアリングを行う。多様な社員の背景を知り、体験することで、自分や組織の働き方や、マネジメントに活かしていきます。(子育て体験は、スリールで手配が可能。)
●特徴:マネージャー自身が子育てと仕事の両立を行う体験を行うことで、自分自身のマネジメントを振り返ることができます。さらに、マネージャー自身が自社の組織を変革していくための提案を経営陣に行うことを通して、マネージャー職やリーダー職のためだけではなく組織を変革するプログラムとして、組織全体のダイバーシティ施策として位置付けることができます。
●プログラム内容:8日間(1回2時間半程度)、2ヶ月程度。
- ダイバーシティ講座
- 子育て体験(4回程度)
- 働き方会議ワークショップ
- 先輩イクボスとのセッション(別途)
- 働き方改革アクションプラン実践
- 役員・社長へのプレゼン
これからの時代は、どの人も仕事とプライベートの両立を考えていくようになります。それが会社にとってプラスになる方向性に仕掛けていくことで、企業としても強固な組織に変化していくことが求められています。
スリールでは「子育てをしながらキャリアアップできる人材と組織の育成」とテーマに、講義や擬似体験型ワークを取り入れた実践的な研修を提供しております。
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