アメリカ屈指の行動経済学者である、ハーバード大のイリス・ボネット教授の本、What Works, Gender Equality by Designがついに和訳され、日本の読者も読めるようになった。邦題は、「WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する」だ。
行動経済学×ジェンダー格差といわれても、ぴんとこないかもしれない。
そんな読者に対して、ボネット教授は興味深い事例を紹介している。
ジェンダーの潜在的バイアスで良い人材がとれない?!
米国のオーケストラの入団試験では、審査員は当然、最も優秀な演奏者を採用したいと思い、審査に及んでいた。しかし、採用した演奏者のうち、女性の割合はわずか5~10%にとどまることが多かった。本当に、男性の演奏者の方が実力が上なのか。審査で演奏者の外見にとらわれず演奏の審査に集中できるよう、カーテンを導入した結果、女性の演奏者の審査の通過率がなんと50%増加した。
審査員はバイアス(偏見)によって男性をひいきしていたことは明らかだ。だが、審査員は女性に対して差別をしようとしていたわけではない。むしろ、男女問わず最も優秀な演奏者を採用したいと思って臨んでいただけに、この問題は根深く、原因究明が難しい。ただ、カーテン導入という、ちょっとした「行動」の介入により、このようなバイアスを修正できた。カーテン導入をした結果、1970年代はわずか5-10%だった女性演奏者の比率は40%までに増えた。
潜在的バイアスを取り除かないと、ダイバーシティは推進できない
「女性活躍」「ダイバーシティ推進」を考えるうえでも、頭でその必要性を理解し、本心から信じていても、社会によって構築された潜在的なバイアスや偏見が、人々の判断や行動に影響を及ぼしてしまう。ただ、長年に渡って無意識にも醸成された価値観や考え方に気付くのは大変なうえに、それと向き合って変えることは、それこそ数十年の作業だ。そこで、ボネット教授は、上記のように、組織の行動を変える「仕組み」や「介入」を実施することの有効性を強調している。これは、バイアスに左右されず、最も優秀な人材を確保し続けたいと考える、企業の人事部にとっても大変重要な課題だ。
「合う合わない」の判断基準、大丈夫ですか?
ボネット教授は、採用のプロセスにおいて、ジェンダー格差をいかに是正するかについても、進言をしている。社会学者のローラ・リビエラ氏が、弁護士事務所、投資銀行やコンサルティング会社での採用を研究すると、最も評価さらた点は、「カルチャーに合う」かどうか、つまり、すでに働いている従業員のバックグラウンドや趣味等が似ている人かどうか、ということだった。採用担当者の半数以上が、この「合うか合わないか」という点が、コミュニケーション力や分析力などを抜いて、採用において一番重要だと話したという。
日本の多くの職場では、特に管理職層においては、男性が大半を占めている。そういう状況の中で、女性活躍やダイバーシティを推進しようとしても、まず採用・面接担当者の間で、どのような項目が重要かの共通認識を持たないと、結局「合う」人を優遇してしまう可能性がある。その「合う」人とは、すでに働いている仲間に似ている人になり、特に女性を無意識にも排除してしまう危険性があるのだ。
最適な人材を確保するための面接方法を探る
今、世界中で行われている採用活動において、約半分は候補者を一人ずつみていて、もう半分は、複数の候補者を同時にみているという。また、アメリカの大企業の管理職の人事評価において、昇進を決める際、3割は1人ずつみる方法をとっているのだ。
果たして、最適な候補者はどうすれば選べるのか。ボネット教授は他の行動経済学者と現実の採用活動に近い環境を創り出し、実験をおこなった。研究の実験対象者は、男性のステレオタイプに当てはまる“数学の問題”、そして女性のステレオタイプに当てはまる“文章の課題”、それぞれの作業をする人材を採用しなければいけないというシナリオだ。そして、採用した人の成果によって、実験対象者は報酬を得ることができた。つまり、より優秀な人を採用したい状況だ。
すると、対象者を一人ひとり個別に評価をして採用を決めた場合では、ステレオタイプ通り、数学の問題には男性、そして文章の課題には女性が採用されることが多かった。問題なのは、能力が決して良くなくても、ステレオタイプ通りに採用してしまう傾向があったのだ。しかし、一人ひとりを評価するのではなく、二人の候補者を比較する形で採用した場合、男女のステレオタイプを乗り越え、ほとんどの実験対象者が、最も成果を出す人材を選ぶことに成功した。人間は、絶対評価をすると、自分の好みや潜在的にも持っているバイアスに引っ張られてしまい、ベストな選択をしづらくなってしまうため、比較をして相対評価をすることは、バイアスを取り除く第一歩となる。
さらに、ボネット教授は、相対評価をするうえで、採用面接はグループ面談やパネル面談ではなく、候補者何人かに対して、複数の採用担当者が個別面談を行うことが、最も有効だという。そして、決まった質問項目や順番に従う構造化面接が、これらの研究結果を踏まえて、ボネット教授は、以下の簡単なチェックリストを組織の人事部に勧めている。
採用面接におけるチェックリスト
面接の前 1.面接担当者の人数とデモグラフィックス(性別、人種、収入、学歴、就業経験、職種等)の確定(自社のデータで判断)。 2.質問項目の確定(自社のデータで判断)。
面接 3.個別に面接(グループ面接なし)。 4.質問の順番は決めて一貫してその順番を使用。 5.質問提示の仕方や捉え方が変わる心理作用などのフレーミング効果に注意する。 6.それぞれの質問に対する回答に、すぐに点数をつける。
面接の後 7.候補者の質問の回答を、ひとつずつ比較。(質問1に対する、Aさん、Bさん、Cさんの回答の比較。質問2に対する、Aさん、Bさん、Cさんの回答の比較。といった手順) 8.事前に決められている各質問への加重を加味し、総合点数を算出。 9.面接担当者のリーダーに点数を提出。 10.意見が分かれるようなケースについては、面接担当者全員でまた議論。特に重要な採用においては、小グループに分かれてさらに議論することも視野に。
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※Iris Bonet, What Works Gender Equality by Design.
人事部が利用できる簡単なチェックリストも紹介されているので、新卒採用シーズンまでに、取り組んでみると、これまでより良い人材を確保できるかもしれない?!
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